共犯者のキス
『...キス、したいなぁ...』
ソファーの隣に座る章ちゃんが、テレビに映し出された、映画のキスシーンに目を向けたまま呟いた。その言葉にドクンと心臓が跳ねる。
『今日は“ダメ”とか言わないんや?』
顔だけこちらに向けた章ちゃんは、優しい笑を浮かべて私に言う。
“わかりやすいなぁ#name1#は』
手を差し伸べ、ゆっくりと肩に章ちゃんの腕が回ると、緩く抱き締めながら触れるだけのキスをした。
慰められるみたいに頭を優しく撫でながら章ちゃんが微笑むから、心が少しだけ穏やかになった気がした。
『...渋やん、昨日来たんや?』
キッチンのビールの空き缶を指差して章ちゃんが言ったから頷いた。何か考えているような顔をして、章ちゃんもゆっくり頷いている。
『...昨日も?』
私は言葉を発せず、ただ頷いた。
付き合って半年が過ぎた頃から始まった。それからは、すばるの浮気なんて何度あったかわからない。
昨日はあからさまに違う女の匂いを引き連れて家に来た。そしてビールを飲んで、シャワーも浴びずに私を抱くから、レイプされたような気分になってしまった。
『んで、#name1#ともヤって、帰ったんや?』
わかっていることだけど、改めて口に出されると胸がチクチクと痛んだ。
『でも、好きなんやろ?』
「...多分、ね、」
章ちゃんは幼馴染みだ。
小さい頃から、私より小さかった章ちゃんに、私はずっと守られている。
学校でイジメられた帰り道も、
失恋して泣きじゃくった時も、
お父さんが亡くなった時も、
仕事で嫌なことがあった日も、
ずっとずっと守られてきた。
『大丈夫やで。泣いていいんやで。ずっとここに居るから』
いつも隣りに居てくれた。
その優しさは、章ちゃんがテレビに出るようになってからも、ずっと変わらない。
すばるとは、章ちゃんの紹介で付き合うようになった。
何度か会っているうちに彼に惹かれ、それに気付いた章ちゃんが、仲を取り持ってくれた。
すばるが浮気をするようになってから、私の異変に一番に気付いたのも、やっぱり章ちゃんで。
そして、思わず涙を零した私を見て章ちゃんが言った。
『同じことしてみたら、少しは楽になるんちゃう?』
そう言って私にキスをした。
『俺が、共犯、なったるわ』
それから、すばるがいない日は、章ちゃんが家に来る。
私はまた、こうして章ちゃんに守られる。
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