ココロの隙間
章ちゃんとはキスしかしていない。
それでも章ちゃんに抱き締められてキスをされる度に、私の中の罪悪感は大きく膨れ上がる。キスだって悪い事なのだから、当たり前。だからどうしてもいたたまれなくなって、拒んだりもする。
けれど、章ちゃんと居ると、やり場のない気持ちが少しだけ取り除かれる気がしていた。
だから、すばるが女の匂いをさせていると、どうにもその気持ちを消化出来ずに章ちゃんを受け入れてしまうのだ。
『明日から俺ら、大阪やで。聞いた?』
「...ううん。知らなかった」
『...そ』
すばるが来ないことに、少しだけ安心してしまった。そして、章ちゃんが居ないことを少し寂しいと思ってしまった。でもそれには気付かないふりをして、心の奥に閉じ込めた。
どうしてすばるは変わってしまったんだろう。どうして、私だけでは満足出来なくなってしまったんだろう。
考えても分からないけれど、自分が悪いのだと思いたくなくて、全てをすばるのせいにして逃げる癖がついた。
すばるに別れも切り出せない、それどころか何も言うことが出来ない。それなのに章ちゃんに逃げる自分は、本当に臆病で卑怯者だと思う。
気が付くと、章ちゃんがこちらを見ていた。
『ちょっと寂しいとか思ったやろ』
首を傾げて誤魔化すように笑いながら
「どうかな」
と言ったら、章ちゃんも笑った。
『渋やんが居れへんから?それとも、俺?』
さっき封印したばかりの気持ちを掘り起こすからドキリとした。一瞬戸惑ったような表情をしてしまったであろう私に、章ちゃんは
『どっちでもええか』
と笑った。
『今日は連絡来てへんの?』
「うん。いつも来る前は連絡あるから」
『明日から行くし、来るかもしれんな。今日は帰るわ』
「うん」
玄関で腰を下ろし、派手なスニーカーを履く後ろ姿を見つめる。振り返って、ちゃんと鍵閉めや。と言うから、頷いて気を付けてね、と返した。
立ち上がった章ちゃんは、私の後頭部に手を当て引き寄せると、キスをひとつ落とした。
『何かあったら電話して』
玄関のドアを出て振り返らずに歩き出す。この瞬間はいつも章ちゃんとすばるが重なる。パタンと音を立てて閉まるドアに、寂しさを感じる瞬間。
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