溢れ出す想い
大丈夫。頑張れ。
あと、もう少しだけ。
章ちゃんが、帰るまで。
「...章ちゃん、ごめんねはいらないよ。...ありがとう...」
『...ありがとうてなんやねん、』
「...そのままの意味だよ」
章ちゃんは、戸惑ったような顔をしていた。でも、すぐに笑顔になって
『幸せにならなあかんで』
と言った。
だから私も笑った。
上手く、笑えているといい。
玄関でスニーカーを履く章ちゃんの背中を見つめた。何度も見た光景も、最後かもしれないと思うと、胸が締め付けられた。
手が震える。さっきよりも酷く。
『ちゃんと鍵、』
「わかってるよー」
ふっと笑った章ちゃんは私の顔を見て
『じゃあ、またな』と言った。
「...うん。またね」と言うと、章ちゃんの手がドアノブを押した。
ドアを出た章ちゃんが、笑顔で振り返った。
...なんで。今まで振り返ることなんて一度もなかったのに。なんで、今日に限って振り返ったりするの。
油断、してた。
視線が絡むと、章ちゃんの目が驚いたように見開かれた。
『#name1#、』
ダメだ。もう止められない。
一粒こぼれた涙は、次から次へと溢れ出て、 止まってはくれない。
章ちゃんが玄関をくぐり、部屋へ再び入って来た。涙で章ちゃんの顔が見えない。
『...なに、?...なんで泣くん、?』
どうしよう、止まらない。
声が、出せない。
『...もー...なんやねん...。黙ってたらわからんで?』
困ったように笑いながら、優しく問いかけて指で涙を拭うから、想いが溢れてしまった。
「っ、しょぅ、ちゃん...、
やだ...、行かないで...っ、」
一瞬驚いた表情をした章ちゃんの顔が次第に歪んで行く。すると急に強く抱き寄せられた。
『...何言うてんの、?...なんやねん...なんでそんなん言うねん、』
章ちゃんの背中に腕を回して、胸に顔を埋めた。章ちゃんの鼓動が、物凄く速い。
『...#name1#、っ...』
呼ばれて顔を上げると、泣きそうな顔をした章ちゃんと視線がぶつかった。
どちらからともなく、引かれ合うようにキスをした。
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