euphoria


愛に迷うココロ


章ちゃんが帰ってから、すばるにメッセージを送った。話がしたいから会いたいと。すると、意外にもすぐに返信が来た。
“ 夜行く ”とだけ書かれたメールを見て、チクチクと胸が痛んだ。息苦しくて唇を噛んだ。
だから、章ちゃんがしたみたいに深呼吸をして頬を叩いた。


夜、インターホンが鳴って鍵を開けると
『ただいま、』
と言ってすばるが入ってきた。

おかえり、と言うと私の顔をチラっとだけ見てリビングへ行き、すばるがソファーに腰掛ける。

「なんか飲む?」
『いらん。話は?』

早くしろとばかりに言うから、少し戸惑った。すばるは私と目を合わせない。
ここまで来ても尚、少し躊躇ってしまった。きつく拳を握りしめて意を決して口を開く。

「......別れてほしいの」
『...ほんで?』
「...好きな人が、出来た...」
『ヤスやろ?』

驚いて、落としていた視線を上げすばるに向ける。ちらりと私を見たすばるに小さく頷くと、直ぐに私から目を逸らして視線を落とした。すばるの横顔を見ながら、吐息が震えていた。

『最初っからちゃうんか』
「それは、違う」
『...せやな。わかってる。俺のせいやんな。それは、わかってる』
「...章ちゃんと、寝た...」
『.............。』
「...ごめんなさい」

私は狡い。すばるの顔が見れなかった。すばるも私を見てはいなかったけれど、それでも俯いたままでしか謝ることが出来なかった。

『......幸せやったか?』

信じられない一言だった。
思わず顔を上げるけれど、やっぱりすばると視線は合わない。

『幸せやったんなら、ええんちゃう』
「............。」
『気付いとったやろ?俺なんてしょっちゅうやったし。...俺のは幸せちゃうかったけどな』

その言葉の本当の意味はよく分からなかった。

「なんで......」
『なんで浮気したかって?...俺はそういう奴や。そんだけ』
「.............。」
『...ヤスは...せえへんのちゃう?』
「...え、」
『#name1#のこと、めっちゃ好きやん』
「......そう、かな、」
『...俺の、負けや、』
「え?」

とても小さな声で、すばるが何を言ったのかわからなかったから聞き返したけれど、すばるは立ち上がり玄関へ向かって歩き出した。

靴を履いているすばるの背中を見つめながら、
「ありがとう」
と言った。
少しの間動きを止めたすばるは、立ち上がってやっと私を見た。すばるの大きな目が、少しだけ、揺れたように見えた。

一瞬のことだった。
すばるの唇が、私の唇に触れた。

『...今まで、...悪かったわ』

何も言えずにいる私にすばるが言った。そしてそのまま玄関を出て行った。
暫く玄関に立ち尽くしていた。
胸が痛くて、苦しくて、動けなかった。

すばるの唇が震えていた。

章ちゃんに伝えなきゃいけないのに、メールも電話も出来なかった。
私はあの時確かに、すばるからの愛を、感じてしまった。




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