euphoria


アイツとオレと


楽屋に入ると、奥の椅子に座ってギターを弾いているヤスに目をやる。ヤスが俺に気付き、
『渋やん、おはよぉ』
と言った。その声のトーンとは逆に、ヤスは曇った表情をしていた。
今は楽屋に俺達二人だけだ。

おー。と言って答えると荷物を置いて椅子に座る。
雑誌を広げる俺をチラチラと見ているヤスに気付かないふりをしていると、ヤスが立ち上がった。

『おはようございまあす!』

入って来たマルに絡まれ、俺に話し掛けるタイミングを完全に逃しあたふたしているヤスを見て、ふっと笑った。すると、未だマルに捕まったままのヤスが、こちらを見て少し驚いたような顔をしていた。

次々に入ってくるメンバーに、律儀に一人ずつ挨拶を交わしているヤス。一気に楽屋が賑やかになっていくけれど、ヤスはというと、逆に険しい表情になっていく。

『ヤス不機嫌ちゃう?めずらし』
『どうしたん?章ちゃん』
『や、別になんもないで。大丈夫』
『...あやしいなぁー』
『仕事に私情挟むべからず!』
『......すんません、』
『謝ってもうた』
『何普通に謝っとんねん!』

みんなが笑う中、一人ヘコんで俯く。俺が言った意地悪な冗談も、今のヤスには通じないみたいだ。ちょっと可哀想なことをしたかな、と思う。

『なんかあったーん?』
『ほんま珍しいやん、ヤス』
『いや、だからちゃうねん、』
『何がちゃうねん!』
『俺に話してみい、章ちゃん!』
『...完全に面白がってるやん、』
『ヤス。俺が話、聞いたるわ』
『............、』
『すばるくん真面目な話出来るんすか?』
『なんやて!俺かて真面目に話ぐらい聞けるわ!聞くだけやろ!』
『アドバイスする気ゼロや!』
『...ほんなら、お願いします、』
『そこお願いしてまうんや?』
『おー、まかしとき』

戸惑ったように言ったヤスは、仕事中も俺を目で追っていた。
ほんま、まっすぐ過ぎてかなわん。

こんなに気を遣った日は初めてかもしれない。ヤスのために気を遣う日が来るなんて思ってもみなかった。
...違う。ヤスのためなんかじゃない。弱い俺自身をヤスに見抜かれてしまわないように、自分のために 必死だったんだ。




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