ココロに秘めた想い
『渋やん』
仕事終わりに俺のところに来たヤスは、朝とは別人みたいにキリッとしていた。
「んー?」
『飯、行かへん?』
「ん、ええよ」
二人で廊下を歩いてエレベーターに乗り、一言も交わさないまま外へ出た。
タクシーで繁華街へ出るまで、当たり障りのない話で繋いだ。
なんとなく、ヤスが緊張しているのが伝わってくる。
俺はというと、意外にも平気だ。
店の個室に入ると、俺を見ないヤスに言った。
「まず、食おうや。話はそれから。」
『...うん、』
「お前固いわ!少し力抜き!酒飲め!」
ヤスが苦笑いして、少し空気が和らいだ。こういうところは、やっぱり年下だなと思う。
『渋やん、俺な、渋やんのこと好きやで』
二人共料理を食べ終え、会話が途切れたところで、突然ヤスが言った。
「...なんや急に。告白する相手、間違うてるんちゃうんか?」
茶化したつもりはないけれど、あまりにも重苦しい空気は避けたかったから、わざと言った。
『間違うてへんわ。やってほんまに好きやもん』
「俺も好きやで」
『渋やん、ごめん。俺、#name1#と、』
「ヤス。俺はなぁ、お前に#name1#譲るつもりはないで」
『.......どういう、意味...?』
「そのままや。お前に、はいどうぞーとは言わへんで」
『...渋やんは、昨日、#name1#になんて言うたん、?』
俺の顔を見たまま難しい顔をしているヤスを、首を傾げて見た。
なんやこいつ。昨日の話、聞いてへんのか?
「...は?」
『だから、昨日...、』
「俺はなぁ、お前のために別れたんちゃうでー言うとんねん」
『...........。』
「自分のためや」
#name1#を好きになるのに時間は掛からなかった。
優しくて、気が利いて、甘え上手で、でもしっかりしていて、さすがヤスの幼馴染みやと思った。
前から、気になっていた。
ヤスの話をする時の#name1#は、すごく優しい顔をしていた。楽しそうに、ヤスの話をしていた。
#name1#の家の近くのコンビニまで来て、30分前に送信したはずの#name1#へのメールが、送信出来ていなかったことに気付いて、電話を掛けようと携帯を取り出した。
けれどそれは、通話ボタンが押されることがないまま、ただ握り締められた。
#name1# とヤス。
寄り添うように歩く二人を見たからだ。
この時はまだ、そういう関係ではなかったはずだ。けれど、最初から気になっていたことが現実になってしまった気がして、コンビニを足早に出て、反対方向へ歩いた。
#name1#の番号を消して、違う番号を表示して、通話ボタンを押した。向かったのは、顔も憶えていないような女のところだった。
- 29 -
*前次#
ページ: