その背中に託す
#name1#じゃない女を抱いた。
それでこの不安が、少し紛れる気がしていた。
なのに、行為が終わると思うのは#name1#のことばかりで、不安で恋しくてどうしようもなく会いたくなった。
俺が犯した罪に気付いた時の#name1#の顔は忘れられない。それでもその顔は、俺を愛しているが故の傷ついた顔だと思えば、何度も繰り返してしまった。
そうすることでしか、愛されている実感が出来なくなっていた。
ヤスが怪我をしたと知った時のあの表情も、部屋にヤスの香りがするのも、ジュエリーボックスにあるヤスがしていた物と同じピアスも、“ 幼馴染みだから ”と言えば納得出来るはずのものが、俺には何もかもが疑わしく感じられた。
歪んだ愛は、俺自身が創り出したものだった。自信がない俺が、自分を守るためにしてきたことだ。
ヤスは時々、何か言いたそうに俺を見ていた。でも、気付かない振りをした。
それでもヤスは、俺を罵倒することもなく、いつも笑顔だった。それに余計腹が立ってしまった。最低だ。
ヤスと#name1#がいつからそうなったのかは知らないが、俺のことがきっかけであることは、よくわかっていた。
「自分のためや。俺みたいな奴はなぁ、お前らみたいなお人好しが二人もおると甘えてまうねん」
『...どういう事、?』
「せやから、お人好しは、お前だけで十分やっちゅうことや」
考え込むように眉間に皺を寄せていたヤスが、俺に真っ直ぐに視線を向けた。
『ほんまに、ええの?』
「何がやねん」
『...俺は、#name1#はまだ迷ってるんやと思う』
「...この後に及んで何言うとんねん」
『...わかってまうねん。そういう気持ちほど、』
アホや。ほんまにお人好し。
「俺が、じゃあもっかいやり直すわ、言うたらどうするん?」
『............。』
「譲ってくれるんか」
『...ちゃうわ!譲るとかやない!』
「...やろ?俺もそうや言うてるやん。お前に譲ろう思たことなんて一回もないで」
唇を噛み締めたヤスが真っ直ぐに、突き刺さるような視線を俺に送った。
なんだか、心の中の本当の気持ちが見透かされてしまいそうで、目を逸らした。
「付き合うかどうかは、お前ら次第やろ。俺には関係ないわ」
暫しの沈黙の後、ずっと視線を逸らさずに俺を見ていたであろうヤスが言った。
『ありがとう、渋やん、』
「...なんやねん、双子か!」
『え?何?』
二人共、同じ事を言うもんだから、思わず笑ってしまった。
こんな俺にありがとうなんて、本当に二人共、お人好しと言う他ない。
そろそろ帰ろうかと立ち上がると、ヤスの携帯が鳴った。携帯を開いて確認し、少し顔をしかめたヤスの表情から、相手は容易く分かった。
けれど俺はお人好しではないから、未だ痛む胸を押さえてまで首を突っ込む気はない。
携帯を握ったまま、俯いて突っ立っているヤスを抱き締めた。
『...渋やん! ちょっ、何っ!?』
「友情のハグやろ!」
『...痛っった!』
ヤスの背中を掌で思いっ切りバシッと叩き、ヤスを解放した。
座り込んで涙目で悶えるヤスを見て笑った。
『...ありがとぉ、』
「ありがとうて!ほんまドMやなぁ!」
『違うっちゅーねん!』
大声で笑った。
こんなに笑えるくらい、この胸の痛み
は大したことないんだと、自分に言い聞かせるように。
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