受話器の向こう側
夜、テレビを付けると映し出されたのは、見慣れた二つの顔だった。
見慣れた、は少し違うかもしれない。
すばるの笑顔なんて、ここ最近はテレビでしか見ていないような気がする。
章ちゃんも、私の前の顔とは少し違う。
二人が肩を組んで笑っているから、ズキズキと胸が痛む。苦しくなってテレビを消したけれど、胸の痛みは消えなかった。
お風呂から出ると、携帯のメッセージを知らせるランプが点滅していた。
開いてみるとすばるからのメッセージだった。
“ 明日から大阪 ”
とだけ書かれたそれに
“ わかった。気を付けてね。 ”
と返信すると、案の定返信はなかった。そんなのはいつものこと。
すばるは不器用だけど、前はちゃんと愛されていると感じられたのに。浮気を知ってからは、セックスが暴行のようにすら感じてしまう。すばるに抱かれることが、少し怖いと感じるようになっていた。
その時またメッセージを受信した。
まさか、と思ってメッセージを開くと、すばるではなく章ちゃんからだった。
“ ピアス、落ちてへん?
あったら拾って隠しとって。
忘れんうちに。 ”
その文字を見て、私たちはこういう関係なんだと思い知らされた。
最早、幼馴染みなんかではない。もう既に、共犯者なのだから。
本当は幼馴染の章ちゃんが家に来ていたって、おかしいことではないのかもしれない。
過敏になってしまう私は、やっぱり罪悪感に塗り固められているんだと思う。
やっと探し当てた章ちゃんのピアスは、ソファーの隙間から出てきた。これを見つけたのが私じゃなかったらと思うと畏縮する。
ピアスは、私のアクセサリーボックスに紛れこませた。紛れていても、それだけ少し目立って見える気がして、なんだか落ち着かない。
でもそれが嬉しい気がしてしまったから、その理由は考えないようにした。
次の日の夜、章ちゃんから電話が来た。
『もしもしー?俺ー』
「あ、章ちゃん」
賑やかな声が飛び交う中、やっぱり
落ち着く章ちゃんの声。
『...俺が“ 俺 ”言うてええんかなぁ?』
「あは、何それー」
『渋やんが言うのはええと思うけどさ、』
「あー...いいんじゃない?だって、“ 俺 ”じゃん」
くだらない事を言って笑うけど、章ちゃんから発せられる“渋やん”にどうしてもドキドキしてしまう。その名前の時にだけ声のボリュームを下げたりするから、余計に。
『ピアス、あった?』
「あ、うん。ごめん、言ってなかったね」
『...わざとちゃうで?』
冗談みたいに笑う章ちゃんにつられて笑う。
「そんなこと思ってないよ」
『でもまあ、俺のもん落ちててもおかしないやろけどな』
「そうだよ、だって、『ヤスーー』
息が詰まったように声が出なくなった。...すばるの声が聞こえたから。
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