優しさの裏に
『なにー?』
『あ、電話中?なら後でええわ』
『大丈夫やで。ちょっとだけ待っといて!』
章ちゃんは至って普通で、焦りなんか全く感じさせない声で応えていた。それを聞いて、私の方が落ち着かずに携帯を持つ手に力が篭もっていた。
『ごめん、また電話するなー?じゃあねー』
「...うん、ばいばい」
すばるが来た途端、二人で話す低めのトーンから、少し高めの甘えたトーンに変わった章ちゃんの声。
もしかしたら、私より章ちゃんの方が、余程気を張っているのかもしれないと思った。
3日後、すばるから、今日東京に帰るから寄る、という連絡があった。少し緊張してしまった。
章ちゃんからの連絡は、ない。
夜遅くインターホンが鳴り、玄関の鍵を開けると、すばるが私にちら、とだけ視線を寄越して部屋に入ってきた。
「おかえり」
『ん、ただいま』
「ご飯食べたんだよね?」
『おん』
「お風呂は?」
『ええわ、入ったし』
「...あ、そう...」
出る前にホテルで入った、という事だと思う。なんで余計な事まで考えてしまうんだろう。
『#name1#』
「...ん?」
『...これ』
「なに?...あ、」
『これ、好きなん?』
「...うん、...かわいい!」
『ヤスが、#name1#が好きやから買ってき言うから。...土産』
「ありがとう。...嬉しい」
『選んだのはヤスやけどな』
「章ちゃんが?...ありがとね」
『おん』
私の手に転がされたそれは、キャラクターの付いた小さなキーホルダーだった。
照れ隠しなのか視線も合わせず、寝ると言ってすばるはすぐに寝室に行ってしまった。私だけ起きていても不自然だから、すぐにすばるに続いて寝室に入り、一緒に横になる。
暫くすると、仰向けに寝ていたすばるの身体がこちらを向いたから、少し緊張してしまう。仰向けの私の顎を掴み、すばるの方を向かされると少し乱暴に唇が触れる。少し舌を絡めた後すぐに離され、すばるは私に背を向けた。
家に来て、身体を重ねないで寝ることは最近では珍しい。本当にお土産を渡す為だけに来てくれたということなんだろうか。
キスをしたのにすぐに背を向けられて、寂しさと、抱かれずに安堵する気持ちが混ざって自分でも戸惑っていた。
寝息が聞こえてきてから、すばるの背中を見ながらずっと考えていた。
この背中に縋りつけたら、どんなに楽になるだろう。違う人を抱いても、すばるなりのふとした優しさを見せつけられたりするから、どうしても離れる決心がつかない。
キーホルダーのことも、すごく嬉しかった。すばるがこんなことをしてくれるなんて、何時ぶりだろう。
でも私が嬉しかったのは、本当にそれだけなんだろうか。章ちゃんのことは、考えていなかっただろうか。
- 5 -
*前次#
ページ: