彼の表と裏の顔
目が覚めると、時計の針がもうすぐ8時を回ろうとしていた。すばるの姿は、ない。
昨日の事を思い出してみたけれど、ずっと目を閉じていたから、夢だったのか現実だったのか曖昧に感じる。
身体を起こすと、首筋に痛みが走って、現実だったのだと思い知らされた。
昨日はあれからすばるに抱き上げられてベッドへと運ばれた。
ベッドの上に降ろされると、すばるは私の身体の中に吐き出したものを掻き出し、体を拭いてくれた。
体半分をベッドに乗せたすばるに何度も名前を呼ばれながら、何度も啄むようにキスされた。すごく、優しいキスだった。
頭を撫でられ、優しく抱き締められて、そのまま眠りについた。
...けれど、もしかしたら夢だったのかもしれない。
洗面所の鏡に映った私は、ひどい顔をしていた。目は腫れて、目尻には涙の跡。首筋には、歯形と痣。 すばると繋がった場所には、ズキズキと鈍い痛みを感じていた。
今日が土曜日で本当に良かったと、つくづく思う。
服を脱いで、熱いシャワーを頭から浴びた。
目を閉じて思い返すのは、昨夜のすばる。あんな姿を見るのは初めてだった。
“好きや、”
行為後のすばるは、行為の時とは全く別人かと思うほど優しくて戸惑った。
けれど、思い返しても吐き気がするあの匂い。私に愛を囁いて、他の女を抱くのはなぜなんだろう。
浴室の鏡に映る自分の首筋を撫でて目を閉じた。
休日、出掛ける時以外、いつもはメイクなんてしないけれど、今日は気分を変えたくてメイクをした。
出掛ける予定なんてないけれど、明るい服を選んで着た。
そうやっていないと、自分でもよくわからない孤独感に押し潰されそうだったから。
鏡越しに見えたリビングのテーブル。
振り返ってテーブルを見ると、確かにそこには紙が置いてある。
歩み寄って小さな紙を手に取ると、決して綺麗とは言えない字で、
“ ほんまにごめん ”
と書かれていた。
すばるのことが、ますますわからなくなってしまった。
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