euphoria


悪夢の中で微睡む


『シャワー、ここ出て左。二番目の扉。もうすぐみんな出てくから誰もおらんの確認してからにせぇよ』

黒のスーツに袖を通しながら言った彼に、まるで心配されているようで少し嬉しくなってしまった。本当はそんなんじゃなくて、私みたいな女をずっと置いておくことを知られたくないのかもしれない。それでも、嬉しかった。

彼がベッドを出ていく頃、誰かが廊下を歩く音や昨夜会った血の匂いがするパーマの男のハイテンションな声が僅かに聞こえていた。けれど大して周りの音も聞こえてこないし、何人がここに住んでいるのかも知らない。

静かに部屋のドアを開けて恐る恐る顔を出してみると、建物の中はしんと静まり返っていた。

彼がこの部屋を出て行ってから一時間、ベッドに雑に投げられたバスタオルを手にして、やっとシャワーに向かった。

言われた通り二番目の扉。同じようなドアばかりが沢山あって緊張してしまう。鼓動を早めながら扉を開くと、中には二つの簡易シャワーが並んでいた。男だけが住んでいるであろうこの場所で、勿論鍵などついていない。

壁につけられたガラスシェルフに畳んだ服とバスタオルを置き、急いでシャワーに入り熱いお湯を頭からかぶった。
透明のシャワーのドアが余計に落ち着かず、何度も振り返ってこの部屋の扉を確認する。

自分の体を眺めてみても、彼の痕など当たり前に何も無くて少しがっかりする。
証が欲しいわけではない。けれど、快楽に飲まれふわふわとした頭の中の記憶は曖昧で、彼に抱かれたこと自体夢だったんじゃないかとすら思ってしまう。

簡単に済ませシャワーを止めて振り返ると、半分開いた扉から目を丸くしてこちらを見ながら立ち尽くす男と目が合い、心臓が飛び跳ねる。
口元を歪ませ笑みを浮かべた男がこちらに歩いて来た。慌てて扉を開けバスタオルを取りシャワーのドアを閉めてバスタオルで体を隠す。するとすぐに透明のドアを開けられ体が強ばった。

『トッポの...やんな?』

昨夜私にキスをしようとしたその男は、バスタオルを巻いた私の体に視線を往復させた。答えずにいると手首を掴まれ、思わず振り解こうと手を引く。けれどその手が離れることはなかった。
ドアの方を振り返った男は、また私に視線を合わせ顎をしゃくる。

『ここ居ったら危ないで。もうみんな帰ってくる』

掴んだ手首を軽く引かれ、シャワールームを出るように促される。恐る恐る一歩シャワーの外へ出ると、ぐい、と引かれ、ガラスシェルフに置かれた私の服を男が掴んだ。
扉を開けて男が廊下の様子を伺っている。遠くでまたあのテンションの高い声が聞こえて、手を引かれるままに扉を出た。

するとトッポの部屋の前を通り過ぎて斜め向かいの部屋の扉を開く。

『あ、エース!シャワーは?』

中に押し込まれたと同時に男が扉を閉め、外で会話が聞こえた。

少しして扉を開き煙草を咥えて部屋に入って来たエースと呼ばれていた男が私に笑みを向け、危なかったな、と言った。

『トッポの女?』
「......ちがう」
『なんや。ほんまにちゃうんや』

昨夜彼が言った“輪姦される”という言葉を思い出して思わず、ありがとう、と呟くと、口角を上げてエースがシャツを脱いだ。

『まだ行かん方がええで。みんな暫くウロウロしてるし』

携帯を弄る姿を見ながらバスタオル一枚巻いただけの姿で立ち尽くしていると、座れば、とエースが言った。ベッドに放り投げられた私の服に目を遣ると、それに気付いたエースがベッドの上から私の下着を拾い上げる。

『あ、着替える?』
「...はい、」

煙草を灰皿に押し付けるのを横目に見ながら私に差し出されたブラに手を伸ばすと、触れる前に手が引っ込められ再びベッドに下着が落ちた。

『着替えなんか後でええんちゃう』

代わりに出てきた手に手首を握られ、一瞬でベッドに押し付けられた。
私の体を跨いだエースが、昨日と同じように口の端を吊り上げて笑い、掌で頬を包まれ顔を近付ける。すると触れたエースの手から煙草の匂いに混じって血液の匂いがしてゾクリと肌が粟立つ。

『こうなることくらいわかってたやろ?』

薄笑いを浮かべて私を押さえ付けるその手が怖かった。声は出なかった。出ていたとしても、ここで助けを呼ぶことなんて無意味なのはわかっていた。

噛み付くように口付けられると唇が震えた。そのキスは当たり前に愛を感じるようなものではなく、唇がピリと痛み血の味が彼の舌で掻き回された。
口内の血液の味、この男から香る血液の匂いで更に恐怖は増し、ただただされるがままに体をまさぐられる。

誰に抱かれても平気だと思っていた。実際にそうされてきたのだから。それなのに、震えて動けない程の恐怖で抵抗さえ忘れた。
諦めて自分から抱かれていた今までとは違う。心の準備をする暇さえなかった。

太腿に手が這い、すぐに下着も身につけていないそこに指が埋められ思わず身を捩る。簡単に潤すためだけの愛撫と呼べない愛撫に痛みを感じた。やっと動いた手でエースの体を力無く押すけれど、またすぐに押さえ付けられうつ伏せに転がされる。腕を掴まれ腰の辺りで手首を何かでひとつに縛られ、バスタオルさえも剥ぎ取られた。

ベッドとお腹の間に腕が入り込み引き上げられ膝と顔で体を支えると、後ろから中心部に指を差し込まれ荒々しく掻き回され、立たされた膝が震えた。
こんなに酷くされていても、痛みの奥にじわりと快感が湧いてきて悔しさに唇を噛み締める。

『トッポとはヤったん?』

女の体など知り尽くしたようなその指先は、的確に刺激を繰り返し一瞬でそこを溢れさせた。
質問に答えることなくその刺激に耐えていると、エースが後ろでふっと息を零して笑った。

『まぁどっちでもええわ』

指を引き抜かれるとすぐにそこに塊を押し当てられ、一気に奥まで押し込まれて息が詰まる。そのまま激しい律動を繰り返され僅かに声が漏れると、エースがヒップラインを厭らしく撫で快感を煽る。

肩と顔だけで支えていた体は肌がぶつかる衝撃で徐々にシーツを滑り、崩れそうになる度腰を持ち上げられ奥深くを抉られた。噛み締めた唇からではなく鼻から抜けるように漏れる自分の甘ったるい声に泣いてしまいそうになる。

欲望のままにただただ律動を繰り返し、揺さぶられ、自分勝手に犯されているのにそれでも快楽に正直な体が恨めしい。
無表情でも酷くはしないトッポのセックスを思い出して、声を押し殺すようにシーツに顔を埋めた。

『お前、どっから拾われて来たん』

唇を噛み締めたままその質問に答えずにいると、ぐっと腰を押し付け何度も奥深くを抉られ嬌声を上げた。

『答えろや』

挑みかかるような低い声で言われ、またぐっと腰を押し付けられた後律動を早めて追い詰められる。

『こんなとこに居るくらいやし、ろくな女ちゃうんやろな』

体の奥から徐々に熱が込み上げ、体を支える膝が震えだし耐えるように拳を握った。それでもじわりじわりと広がってくる絶頂の前兆に必死で身を捩って抗う。
けれど私を犯す男はそれを嘲笑し、面白がるように腰を掴み直しより深くに突き立てた。



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