……………

休日のメインルーム。

頭に重傷を負った男ふたりに包帯を巻いてやるジムの姿があった。

「あーあ…たんこぶ出来ちゃってるよ。痛かっただろ、お前ら」

優しく看病する姿はまるでお母さんのよう。


そこへショッピングから帰ってきたビッキーが、ウサギのようにピョンピョン跳ねながら部屋に入ってきた。

「ただい…あっ!リッキーこんな所にいたの!探したの…」


サラは急いで彼女の口を塞ぐ。

「ふたり頭打っちゃってね。あんまり大きい声出したら骨に響くから、ちょっと静かにして」

「お前がやったんだろ!!」

「ジム…うるさい…」

「あ、ごめん」


痛みと絶望でリッキーの声色さえも低く暗い。

そこへビッキーを探していたボビーも続けてメインルームへやってきた。


「探したよ☆我が姫。こんな所にいたのですか」

「うわキショッ!探さないでよ!探すなら、私じゃなくて天国への入り口でも探したら?」

「酷いですよ…姫(T^T)」

「その『姫』ってのもやめてくんない!?アンタに言われても嬉しくないんだけど」

「またまた酷…あれ?醜い男共、どうしたんだい?怪我?」


そのふたりに近づくビッキーと酷い言い様のボビー。

彼女は心配そうに話しかけた。


「大丈夫、リッキー?私がいなくなったから寂しくて壁に何度も頭部を…」

「大丈夫ですよ…。頭はそうやって打ったんじゃないんですけど」


しかし口を開いたのはもちろんナイジェルの方。

彼女は白けた顔で隣を見た。

「アンタの事はこれっぽっちも心配してないから。リッキーに話しかけたのに何でナイジェルが答えんのよ?」

「俺がそのリッキーだからですよ」

「キモッ!どーしたの?ボビー並にキモいよ?」

「またまたまた酷いよ…ビッキーちゃん(T^T)」

「入れ替わっちゃってるのよ、このふたり。リッキーの方よく見てみなさいよ」

「え?」


サラの言葉に、愛しの王子様の顔をじっと見る彼女。

言われてみるとこの人、目も口も中途半端に半開きにしてやる気ゼロ。

しかもなんとなく…信じたくないがなんとなく…

30代独特の親父臭いオーラが体にまとわりついている。


「確かにコレはリッキーじゃないわ!誰よ、コイツ!」

「気持ち良い程の態度の変わり様ね。
だから入れ替わってるって言ったでしょ?
貴方が必死に肩を握ってる男は、リッキーじゃなくて中身はナイジェルなのよ」

「え?」


そこでリッキーの姿をしたナイジェルがようやく口を開く。


「痛ぇから離せ、クソガキ」


嫌ぁー!

こんなのリッキーじゃない!!!


予想出来た反応。

ピーピー泣き喚き始める女に、サラとジムは慣れた手つきで耳栓をはめる。


「だから今、どうやって元に戻るか考えてんだよ。あんまり叫ぶな、ビッキー。
必死に耳を塞いで苦しんでる、愛しのリッキー君が見えないのか」


「何だ!そんな事で悩んでたのかい?」



え?誰だ?

この重大事件を「そんな事」と軽々しく言い放った人物は…

高めの男の声。

それ言った張本人は、大きな目をかっぴろげたボビーだった。

彼の一声に、全員の視線がその目に集中。


「そんな事って…お前、元に戻す方法知ってんのか!?」

「当たり前だよ。ウチの家、兄弟多いでしょ?
ケンカも絶えず、精神が入れ替わるなんて日常茶飯事だったからね!1日5回は入れ替わってたよ」

「日常茶飯事って…。大勢が1日5回も入れ替わってたら、その日の終わりになるともう誰が誰だかわからないんじゃ」

と、サラの突っ込み。


「んで!どうやって治してたんだ!?」

そんなお家話は今はどうでも良い。

ジムは彼女を押し退けて問いただすとボビーは笑顔で答えた。


「僕の父上が元に戻す秘薬を持ってるよ。貰っておいでよ!」

「よし、わかった!俺が今すぐ貰ってくる!」


急いで立ち上がり、ボビーの父親に会う為玄関へ走り出すジム。

ところがその勢いも長続きせず、すぐに立ち止まり振り返る。


「ボビー。親父さんって、お前の実家にいるのか?」

うん、そうだよ。と首を縦に振るボビー。

するとジムは、どうしたのか頼りなくトコトコ小さい歩幅で戻ってきた。


「悪い…俺ボビーの実家、どこにあるか知らないや」


結局最後は頼りにならないリーダーだ。

ビッキーが当てにならない彼にぶち切れる。


「もう!アンタは相変わらずココって時に役に立たないんだから!んじゃ、ボビー!アンタが取ってきなさいよ!」

「ごめん、ビッキーちゃん。僕、今からピアノのレッスンが…」

「ピアノとリッキー、どっちが大事だと思ってんの、この白髪!」

「またまたまたまた酷いよ…ビッキーちゃん(T^T)」


「誰かボビーの実家、知ってる人いないの!?」

ビッキーは叫んで、全員の返事を待った。

そこでひとりの男がそっと手を上げる。

それは紛れもなくリッキーの姿をしたナイジェルだ。


「俺…知ってるけど」

一瞬にして静まり返る部屋の中。


「マジで?」

「マジに決まってんだろ」


そこでボビーが思い出したように手を叩く。

「あ…そういえば!父上、今日の8時から南アフリカ旅行に行くから家を出るんだった!」

「はぁ!?なんだそれ!南アフリカって設定いきなりすぎるだろ!」

「もう7時じゃん!急がないと!一応訊くけど、その旅行ってどの位の期間なの?」


「1年」


「「いちねん!!?」」


ナイジェル「ちょ待て!やっぱ設定メチャクチャだろ!いや…ボビーだからメチャクチャなのは当然なのか?」

ジム「そんな呑気な事言ってる場合か!このままだとお前ら1年間そのままなんだぞ!急いでボビーの親父さんに会いに行け!」

「あ…ああっ!」


慌てて外に飛び出し、ヘルメットを被ってバイクに股がるリッキーの姿をしたナイジェル。


「ちょっと待って!」

ボビーはナイジェルの姿をしたリッキーも慌てて連れてきた。

「この人も連れて行きたまえ!その人自身もいないと効果がないんだ!」

そうか、と自分の姿をしたリッキーに話しかける彼。


「おい、大丈夫か?運転出来そうか?」

「ごめんなさい。この状態じゃ…」


チッとリッキーの声で舌打ちをする音。


「仕方ねーな、俺の後ろに乗れ!」

「すいません…」


彼は自分の姿をしたリッキーをバイクの後ろに乗せる。

しっかり掴まってろと促し、見送りも気にせず猛スピードで走り出した。

小さくなっていくバイクを残された4人は心配そうに見つめていた。


サラ「大丈夫かしら」

ジム「さぁな」

ビッキー「リッキー…」

ボビー「あっ!ピアノのレッスンが…」


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