……………

「はぁ…。ヒロインなんてどうすればいいのよ」


無気力で控え室のベッドにごろんと寝ころんだサラ。

まず演技すらまともに出来る自信がないのに、いきなり主役級だなんてあの監督どうかしてる。

それに私の悩みの種はそれだけではない。


相手役はリッキーなのに。

先日の件からか、脳裏に浮かぶのは別の男の顔ばかり。

彼女はどうしようもなく天井を見上げた。


「ふぅ」


コンコン!


そこで聞こえたのは、自分の部屋の扉が2回程叩かれる音。

誰だろう、スタッフさんかな。

このままの体勢ではいけないと仕方なく起き上がる。


「はい」

扉が開くと、そこにはひとりの男性の姿があった。


「サラ、お疲れさまです」

ドアの隙間からひょっこりと頭を出したのは、いつものように優しく微笑むリッキーだった。


「リッキー…どうしたの?」

「何もないですよ。ただ、俺達主人公とヒロインに選ばれちゃったじゃないですか。だからちょっと話とかしておいた方がいいのかなと思って」


それもそうだな…

サラは重い腰を持ち上げ、ベッドから立ち上がる。


「座ってていいですよ。忙しかったですか?」

「何もしてないわよ」

「みたいですね(笑)」


リッキーはそのままの表情で勝手に部屋の中に入り、彼女の隣に座る。

この距離だと、柔らかいまるで女の子の肌だと一層よくわかる。


「それにしても大変な事になっちゃいましたね。俺、演技なんて出来る自信あんまりありません」

「私なんてあんまりどころか100%ないわよ」

「その割には緊張しているように見えないですね」

「いつもヘラヘラ笑ってる貴方には言われたくない」


ケラケラ笑っている彼の肩をパチンと叩いてやる。


「大体、配役が変なのよ。えっと…リッキーがアイドル新入生で…ビッキーが私の親友。ボビーが…校長?」

「先生です」

「あ、そっか。で、ジムが……なんだっけ?エキストラ?」

「違います。不登校の生徒です(それも違う)」

「そうそう…で、ナイジェルが私の……」


そこで、ふと彼女の口が止まった。

ナイジェルはサラの元カレ役。

現に最初の段階では付き合っている設定になっていて、後半には別れのシーンまであるという。


「…………。」


彼女がナイジェルの配役を忘れたわけではないという事は、初めからわかっていた。

彼女は下を向いたまま動いてくれない。

秒針の進む音だけが、静かに部屋の中に響いていた。













「相手が俺じゃ…嫌ですか?」

「っ…」


突然のリッキーの言葉にようやくサラは顔を上げた。

しかも驚いた表情でこちらを見ている。


「な、何言い出すの?そんなわけないでしょ?」

「そうですか。なら良かったです」

「………。」


何も言い返せない。

サラは再び俯いてしまう。


「ごめんなさい、変な事訊いてしまって」

「いえ、謝るのは私の方よ。ごめん。でもリッキーが相手じゃ嫌って事じゃないから!本当に…」

「わかってますよ。すみません、困らせるような質問して」


目と口を閉じて、また可愛らしく微笑む。

何があってもそうやってニコニコ笑ってるから…

貴方は心が全然読めない。


「とりあえず決められたからにはやるしかないですし、頑張って良い映画にしましょうね」

「う…うん」

「さ、そろそろ時間です。行きましょう」


リッキーは腕時計の針を見て、座っていたベッドから立ち上がる。

サラも彼につられて立ち上がり、ふたりはスタジオへ行く為に控え室を出た。











俺が相手じゃ不満だって事は、言葉にしなくてもわかります。

どうにか気にしてない素振りを見せられたけど…

やっぱりそうやって態度に出されると正直腹が立つ。


ねぇ…


どうして貴方の目は

俺じゃなくて別の男を見てるんですか?



前を歩くサラの背中を見て、リッキーは小さく眉をひそめた。


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