……………

リチャードはニックから話を聞いた数日後、サリーの親友と聞いた「ビクトリア」という女性から話を聞く為に彼女が所属しているチアガールサークルの部屋を訪ねた。

「あの…ビクトリアさんってここにいますよね?」

「あぁ、いるわよ!ちょっと待ってね!」

たまたま近くにいた女性に尋ねると、彼女はすぐに部屋の中へ戻る。

男性、しかもあの噂の新入生が訪れたとあって、チア部の女子達は少なからずざわついている。

その中をかき分けて現れたのは、探していたビクトリアだ。


「あ!リチャード君じゃん!おはよー★」

「え?俺の事知ってるんですか?」

「当たり前だよー!もうこの学校では知らない女子はいないって!」


歯を見せて笑ってくれた彼女。

人懐こく元気一杯で、とてもあのサリーの友人とは思えない。

いつもクラスの真ん中にいるタイプのショートカットの茶髪女性だ。

ニック先生の言っていた事は本当なのだろうか?


「どうしたの?」

「あ…えっと、訊きたい事があるんですけど。今日の昼休み、昼食を食べ終わった後に少し付き合ってもらえませんか?」

「敬語はよしなよ!あ、それに私の事はビクトリアでいいよ!同い年なんだからさ!」


フレンドリーな人だな。

彼はそう思いながら返事をした。


「ありがとうござ…じゃないや。ありがとう」

「よろしい!じゃ、また昼休みね!」



赤と白、そして青のアメリカンなスカートをひらりと翻して走る姿を見て、リチャードは軽く微笑みその場から立ち去った。






……………






キーンコーン…


午前の授業終了の予鈴が鳴った。

これから昼休みの時間だ。

生徒達は集まってお弁当を食べたり、食堂へ突っ走る者も。

リチャードも仲良しのいつもの男友達と共に昼食を取る。








ビクトリアは昼食を終えた後、約束通りリチャードの元へやってきた。

そのままふたりで気晴らしにと外へ出て、キャンパスの中庭をゆっくりと歩き出す。

早速彼が切り出した話題はもちろん、あの内容だ。


「サリーの事?」

「うん。俺、彼女の隣の席によく座るんだけど相手にされなくてどうも仲良くなれなくて」

「あの子の事好きなんだ?」

「あ、いや、そういうのじゃなくて…。いつもひとりだし周りからも孤立してるから…その…なんとか出来ないかと。
ビクトリアが彼女と親しいって聞いたから、ちょっと話を聞きたいと思ったんだ」

「そうなんだ!?リチャード君偉い!」

「偉いって?」

「あぁ…まぁそういう事」


ははっと笑ってスルーされた。

今までの女性達とは違い、彼女はサリーさんの名前を出しても嫌な顔をしない。


「ビクトリアがサリーさんと幼馴染で仲が良いっていうのは本当なの?」

「幼馴染ってのは本当だよ。でもアイツあんな性格だから親友と思ってるのは私だけかもしれないんだけどね(笑)」


次は明るい笑顔を見せてくれた。

ニック先生の言っていた通り、サリーさんに一番近い存在なのはやはり彼女なんだ。

ビクトリアは他の人と違って、サリーさんと「友達でいたい」と思ってくれている。


「うん…でもそうだよね。アイツ愛想ないから。別に怒ってるわけじゃないんだよ!ただそれが普通っていうだけ」

「そっか」


それを聞いて口を閉ざしてしまう。

微妙な空白の時間。

コンクリートの上をゆっくり歩く足音が耳に入っていた。



「あの…」

「気になるんでしょ?なんでサリーがあんな無愛想なのか」

「あ、うん」


彼女は既に俺の心を見抜いていた。

俺が今一番訊きたくて、でも訊けない心のモヤモヤが顔を見ればすぐにわかったのだろう。

ビクトリアは遠くの空を見つめながら話を始めた。


「アイツね、両親いないの」

「え…あ…その」

「ううん。ちゃんと生きてるよ。ただアイツのお父さん、ギャンブルに負けて多額の借金をしちゃって。それが原因で家庭内で暴力を受けて、お母さんがサリーを連れて家を出て行ったの。

それでも女でひとつで子どもを育てるのって相当大変らしくてね。
最初は優しかったお母さんもだんだん生活が嫌になって、仕事を辞めて毎日色んな男の人と遊び呆けて、最後にはサリーを捨てて他の男の人と遠い町まで逃げちゃったんだ」

「………。」

彼女の知られざる過去に、思わず耳を疑ったリチャード。

ビクトリアのいつもの明るい表情も、この話をする時ばかりはまるで別人。

彼の顔から視線をずらして話を続ける。


「アイツが拗ねたのはそれから。親からも見捨てられて親戚の家に預けられたんだけど、学校では『捨てられた奴』『借金まみれの暴力父親にアバズレの母親』なんていじめられちゃって。

小学校の時、私は彼女に出会ったの。
アイツ教室の隅でいつもぽつんと座ってた。
ひとりだけ小学生らしくない空気醸し出してさ。誰とも遊ばず、ひとりで何かをするわけでもなく、ただ黙って座ってるの」

「どうしてビクトリアは仲良くなったの?」


彼の唐突な質問。

ビクトリアは一時黙った後、そっと彼の瞳を見つめて答えた。


「私、彼女の隣の席だったの」

「え?」


隣の席?

リチャードは咄嗟に足を止めた。


「そうだよ。今のリチャード君と同じ。私さ…皆が楽しそうにしてる中、ひとり取り残されてる人がいるなんて…そんなの耐えられない性格なんだよね。
だからどうにか心を開いてもらうように頑張って話しかけた。周りからはやめなよって何度も言われたけど」

今までの自分の姿と重なる。

まるで自分の体験した出来事を、他人が話しているような錯覚に捉われた。


「僕と同じだ」

「フフッ!そうなんだ?でもサリー、その親戚の人とも結局合わずに家を出て、今はずっとひとりで暮らしてるんだ」

「そうなんだ」


サリーさんの、あの無表情でどこかに影を帯びた横顔が脳内に蘇ってくる。

そんな辛い過去があるとも知らず、無神経に声をかけていたなんて。

今更になって自分が情けない。


「でもね、アイツ…やっぱり寂しいんだと思う」

「え」


ビクトリアは止めていた足を再びゆっくりと前に進め始めた。

彼もその後を付いていく。


「長年彼女を見てて思うんだけど。気が抜けたふとした瞬間、凄く寂しそうな顔をするんだ。
どんなに強がったり意地を張っても、やっぱり根は普通の女の子だから」

「………。」

「だから、リチャード君はサリーの事見捨てないでやってね。本当は良い人だから。自分を大切にしてくれる人が欲しいって思ってるはずだから!」

「うん。わかってる」


安心させるよう強く深く頷いてみせる。

自分は今耳に入ったほんの僅かな事しかわかっていないけど。

それでも僕は…


「ねぇ、ビクトリア」

「何?」

「僕にも…頑張れば君みたいに、心を開いてくれるかな」


やっぱり大切な人が欲しいって、心のどこかで思ってくれているといいのにな。


「うん…大丈夫だよ。きっと大丈夫だよ!」


暖かい風が吹いた。

もうすぐ寒い冬が終わって春になるんだ。

今年の卒業式までには、どうかサリーさんとの距離が少しでも縮まりますように。

静かに思う中、学校のチャイムが再び鳴り響いた。


- 155 -

*PREV  NEXT#


ページ: