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……………

約束の昼休み。

自分の前を何人もの学生が通り過ぎていく。

特にこちらを気にする様子もない。

彼女は既に中庭のベンチに座っており、リチャードが現れるのを待っていた。


「ごめんなさい!お待たせしてしまって。ちょっとボブ先生に呼び出されてしまって」


約束から5分遅れ、リチャードは急いでサリーの元へやってきた。

額には汗が滲んでいる。結構走ったようだ。


「………。」

「あの…怒ってますか?」

「…はい」


彼女はそう言って、持っていた白いハンカチを差し出した。

これで汗を拭け…という事なのだろうか?

とにかく怒ってはいなさそうだ。


「あ、ありがとうございます」


女性的な面もあるのかと心の中で思いつつ、彼女からハンカチを受け取るリチャード。

全力疾走したせいか思った以上に汗をかいてしまい、それはすぐに湿り気を帯びた。


「でも良かった、来てくれて。あ、このハンカチ明日洗濯して返しますね」

「いいわよ、別に」

「あ。また別にって言った!口癖なんですか?」


その言葉に少し頬を赤く染め、ぷいっと遠くを見たサリー。

そんな表情もするんだ…。ちょっと意外かも。


「で…話って何?」

「あ、いや特には。ただ貴方と色々話がしたいなって思っただけで」


ポケットにハンカチを仕舞い、ヘラっと笑ってみせた。

そんな彼の顔をじっと見つめたサリーは、


「…なんで?」

「はい?」


当たり前のようにそう訊いてきた。


「いや。なんでと言われましても…」

「どうして私なんかと話がしたいの?私と話しても楽しくないでしょう」

「……ッ」


リチャードは何も返事を返せない。

冷たい口調だが、目はとても寂しそう。

直感でそう感じていた。


「私が周りからどう思われてるかなんて知ってるでしょ。貴方隣の席なんだから」

「………。」

「貴方まで周りに避けられても、私知らないわよ」



言い方は雑で投げやりだが、その意味はとても重い。

遠回しだが、サリーさんは僕を自分と同じ境遇にさせない為にわざとこういう冷たい忠告をするんだ。

だとすると、ますます…


「関係ないです」

「……ッ」


一瞬黙ってしまった彼だが、すぐに真っ直ぐな視線でその言葉を言い放った。

珍しいその回答に、彼女も思わず顔を見てしまう。


その言葉を言われたのは、私が生きている人生で二回目。

あの馬鹿な女と、こんな所にもうひとり。


ほとんどの人間は私に近づこうとしても、突然その事実が怖くなって皆逃げていた。

それなのに。


「僕は貴方と純粋に話がしたいから誘っただけです。周りがどう思おうと、そんなの関係ありません」

「貴方…」

「午前中にも言いましたが、貴方の事はお友達のビクトリアから聞きました。
どうしてサリーさんが自分の殻に閉じこもってしまったのか…僕にはもうわかっています!」


ビクトリアからなら、おそらく大体の話は聞いているのだろう。

正直言うと、あまり知られたくない、思い出したくない過去。

サリーは何か言いたそうに口を開きかけたが、すぐに目を背けてしまった。


「ッ…貴方には関係ないでしょ」

「辛かったら話してくださいよ!貴方だって、このままじゃいけない事くらいわかってるんでしょ!?」

「………。」


何も言い返せない。


「僕は貴方の事を信じています!」

「貴方が私の何を知ってるって言うの!?」

「でも」

「今まで何の苦労もせず生きてきて、顔も良い性格も良い、皆に人気者の貴方に…私の気持ちなんてわかるわけないでしょ!?」

「……ッ…」


ズキリと胸に突き刺さった言葉。

一時の沈黙。

言葉を口にしたいが、それも出来ないくらい空気が重い。


サリーさん…

僕はただ…




「…戻る」

「え、ちょっと!サリーさん!」


その空気に耐えられなかったのか、はたまたリチャードの気持ちを素直に受け入れられないのか…

彼女は金色の髪を揺らし、足早にその場から姿を消した。


「………。」



…また、やってしまった。


彼はどうしようもなく小さく息を吐く。

やっぱり、自分の思いは彼女に届かない。

むしろ傷つけてしまった。

彼女の言う通り、僕が今までほとんど何の苦労もせずに生きてきたのは事実だから。

今の僕では、サリーさんは救えない。

こんな綺麗なままの僕なんかには、到底わからないんだ。

彼女の言葉ひとつひとつが、背中から腰にかけてずしりとのしかかってくる気がした。

今はこの暗い顔のまま、この場を立ち去るしか選択肢はない。


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