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……………


「バイバイ!」


「ねぇ、これからどこ行く?」


「聞いたか?駅前のゲーセン…」



聞こえるのは授業を終えた生徒達の声。

夕陽に染まる校舎。

その声は時間が経つにつれ徐々に減っていき、

そして教師も次々に帰宅していく。


空は暗くなり、この建物にいる人間はごく僅かに…





ガララララ!


生徒はほとんどが帰宅した午後8時。

室内の窓も黒くなってしまった中、美術室の扉が強く開かれた。


「……ッ…」

こんな時間までデッサンをしていたニック。

どうやら理事長との話が終わり、それからずっと絵を描いていたようだ。

そこで部屋に入ってきたのは、いつにも増して暗い表情のサリーだ。

恐らく今日のリチャードとのやり取りが原因だろう。


「………。」


彼はちらっと彼女の顔を見た後、またキャンバスに視線を戻す。


「どうした?こんな時間まで」

「……ッ…」


何も言えない。

今日のリチャードとの会話が忘れられないのか、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまっている。

今にも壊れてしまいそう。


「…ねぇ」

「………」


こちらへ近づいてくる足音。

もうどうしたらいいかわからない。

私が頼れるのはもう貴方だけなの。

貴方ならわかってくれるでしょう。

サリーが後ろから彼に抱きつこうとした瞬間…









「別れよう」









「え…」



耳に入ってきたその言葉に咄嗟に足が止まる。

最初は聞き間違いだと思った。

そんな事、この人が言うはずなんてないって思っていたから。

しかしその言葉は畳み掛けるように、またはっきりと私の耳の中に入ってくる。


「別れよう」

「は?意味がわからない…」


当たり前だ。

先日まで私の事を愛していると言ってくれた人。

そんな人が突然…何かの間違いに決まっている。


「う…嘘でしょ?からかわないでよ」

「嘘じゃない」

「私今機嫌が悪いの!くだらない冗談はやめて!」

「嘘じゃねぇよ!」


ニックの言葉に現実が受け止められないサリー。

彼女が呆然と固まる中、彼は立ち上がって冷たく言い放った。


「他に好きな女が出来たんだ。もうお前に興味がない」


「……ッ…」














また…サラの台詞が止まった。


「……。」


彼女の様子がおかしくて、ナイジェルも思わずカメラに映っていない瞬間に視線だけを向ける。

台詞を忘れたのか。気分でも悪いのか。

いや、そうじゃない。





「カット!」

そこであまりの沈黙の長さに、ハリー監督がすかさずカメラを止めた。

その瞬間に撮影中の緊張感から全員が開放される。


「おい、どうしたサラ。顔色悪いぞ。気分でも悪いのか?」

「ご、ごめんなさい。台詞飛んじゃって…」


心配そうに話しかけてきたナイジェルに、下を向いてしまうサラ。


なんだか、今の台詞をナイジェルが本当に私に言っているように聞こえて。

怖くて口が動かなくなったのが事実。


彼がもし…私じゃなくて別の人を好きになってしまったら…

そんなの今はとても耐えられない。

演技とわかっていても、普段のナイジェルと演技しているニックの姿が重なってしまって

怖くて足が震えてしまった。


「サラちゃん、大丈夫?」

そこでようやくハリー監督も彼女の元へ駆けつけた。


「すみません、監督。台詞…ど忘れしちゃって」

「撮影しっぱなしで疲れたんだろう。休憩する?」

「大丈夫です。もう一回、今のシーンをお願いしてもいいですか?」

「そう?わかった、いいよ。あんまり無理しないでね」

「ありがとうございます」












「ハイ、よーい…アクション!」


テイク2。

再びドアを開けるシーンからのスタートだ。



ガタン。


そこで控えの椅子に座っていたリッキーが無言で立ち上がった。

「あれ?リッキー、見ないの?」

「…ちょっと外の空気を吸ってきます」

隣に座っていたビッキーの言葉にもにこりとも笑わず、彼はスタジオを出る。


見たくない。

これ以上こんなの見ていたら…

気が狂ってしまいそうだから。


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