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……………

「やぁ、リチャード」

最近色んな事がありすぎて疲れきっているリチャード。

曲がっているそんな彼の背中を何者かが軽く叩いた。


「ッ…貴方は」

後ろにいたのはクラスの世話役であり、リーダー的存在のジェームズという男性生徒。

しっかり者で教師からの信頼も厚い、学生自治会の会長でもある。

リチャードの元気のなさに気づき、声をかけてきたらしい。


「最近元気ないみたいだな」

「なんでわかるんですか」

「まぁ、俺はこういう存在だから」


頼もしい余裕ある表情のジェームズ。

しかしそんな彼の励ましにもリチャードの気力は戻らない。

顔は笑っていても、やはりどことなく疲れた顔だ。


「まぁ、何があったか知らないが元気出せ。俺がコーヒーでも奢ってやるから」

「…え?」


右腕を引かれ、椅子に座っていた腰が自然と浮き上がる。


「お前とは少し話をしてみたかったんだよ。付いて来い」

確かに彼とはあまり話した事がない。

先生に頼られっぱなしで忙しそうに見えていたし、しかしこんなに彼が強引に誘ってくるなんて。

ジェームズの誘いを断る事も出来ず、リチャードは彼に腕を引かれたままルームを出た。








事件は、その数分後に起きた。













「キャァッ!!」


廊下中に響き渡った突然の女性の悲鳴。

これはチア部のビクトリアの声だ。


「……ッ!?」

廊下をボーっと歩いていたニックは、いち早くその声に気づく。

彼女が腰を抜かして床に座り込んでいる姿が偶然見えたのだ。


「どうした!?」

慌ててビクトリアの元に走る。


「……ッ…」

「おい!大丈夫か!?」


肩を揺さぶっても、彼女は震えて声が出ない。

その視線の先には…



「動くなよ」


気を失ったリチャードに銃を突きつけているジェームズのすが…た?



(エエエエエッ!?ちょっと待って!お…俺、悪役!?なんで!?どうして!?俺一応主人公だよね!?)



心の中でめちゃくちゃに突っ込みを入れたジム。

一瞬顔も悪役らしからぬ歪んだ表情になるが、今は演技に集中しなければとすぐに元の極悪顔に戻る。


「テメ…!何してやが…」

「動くなっつってんだろーが!」


優秀な生徒とは無縁の荒々しい口調のまま今度は銃口をニックへと向ける。

そのジェームズの口元は、少し笑っている?

クソッ。この状況どうする事も出来ない。


「なんの騒ぎだ!?」

「きゃぁ!拳銃よ!」


モタモタしていると、異変に気がついた野次馬共が廊下へ集まってきた。


「ジェームズ!貴方はそんな事する人じゃないでしょ!?私、信じてたのに!」

(あ…可愛い…)

「うるせぇ、黙れ!」

心の中で思っている事と全く逆の演技をするジム。


仕方ない。ジェームズもかなり興奮しきっている様子だ。

とりあえず彼の気を静めさせなければ。


「落ちつけ、一旦。お前の目的はなんだ?」

「目的?ねーよ、そんなもん。ただ目障りだったんだよ。コイツと…偶然ここに居合わせたアンタがな!」

「俺…?」


自分もターゲットだと聞かされ目を細めるニック。

リチャードとニックの繋がりと言えば…ひとつしかない。


「サリーの事か?」

その言葉に目を丸くするジェームズ。

「へぇー。勘だけは良いみたいだな」

「………。」


ニヤリと笑った彼。

どうやら事の原因はサリーにあるらしい。


「彼女が最近、大学に来てない事は知ってるよな?全てこのリチャードのせいなんだよ」

「……ッ」

「俺はいつも遠くから彼女の事を見守り続けてたってのに…コイツは考えなしに彼女に付きまといやがって。スゲー目障りだった。可哀想に。こんなストーカーのせいで大学にも来れなくなって」

「………。」

「それからニック先生。アンタ…彼女とデキてたんだよなぁ。教師のくせに一丁前に生徒に手ぇ出すなんてよ」


「サリーさんとニック先生が付き合ってた?」

「え!信じらんない!本当なの!?」


ジェームズの発言に一斉に周りが騒ぎ始める。

ニックはビクトリアの肩を支えながら、頬に汗を一粒流した。


「おいおい…なに大勢の前でカミングアウトしちゃってんだよ。先生、クビになるだろ」

「何を今更。もう理事長にもバレちゃってるくせに」

「……ッ!?」








*****



「生徒に手を出したそうじゃないか、君は」

「ここのルールを守れないというのかね…」

「だったら今月中にこの大学から生徒共々出ていってもらう!」



*****






蘇る

先日理事長に言われたこの言葉。

まさか…

一気に頭に血が上った彼は、その場で怒鳴りながら立ち上がった。


「まさか…チクッたのテメェ…!」

「おっと!動くなよ!大事な生徒がどうなっても良いと思ってんのか?」


再び銃口を気絶しているリチャードのこめかみに突きつけるジェームズ。

野次馬はますます騒ぎ立てている。

どうすればいい…?

俺なんて、もう別に死んだっていいと思っている。

ただ…コイツにだけは死なれちゃ困るんだ!


「わかった!俺が代わりに人質になる。だからソイツを…」

「バカじゃねーの!?ふたり共に恨みがあんだよ、ふたり共ぶっ殺すに決まってんだろーが!」

「なら先に俺を殺してもいい!頼むから俺を人質にしてくれ!」

「今更良い人ぶってんじゃねーよ!」










「待って!」


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