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聞き慣れた声。

廊下の先には…

ずっと大学に来ていなかったサリーの姿があった。


「サリー…ッ!?」

「……ッ」


ジェームズさえ言葉を止めた。

彼女の息はかなり切れている。

噂を聞きつけ、どうやら走ってここまでやってきたようだ。


「サリーさん!やっと来てくれたんだな!見てくれよ!貴方がウザったいと思ってた野郎、俺が代わりにシバいてやったぜ!」

「ジェームズ…」

「それに君に手を出したこの男にも…今から俺が罰を与えてやるからな!見ていてく…」

「やめて!!」


彼女の叫び声にジェームズの言葉も途切れる。

「お願いやめて。貴方の言ってる事…全部間違ってる」

「間違ってる?この俺が?」

リチャードに拳銃を突きつけたまま、彼は不思議そうに眉をひそめた。


「どうして?だって貴方…可哀想に、この男に酷い振られ方したんでしょ!?」

「それは私が悪いの!私が彼に相応しい女じゃなかったから」

「だっ…このリチャードにも執拗に付きまとわれていたじゃないか!だから…」

「付きまとわれてなんかない!彼は必死に私を救おうとしてくれてたの」


「「………。」」


静まり返る長い廊下。

野次馬は彼女の言葉に騒ぐ行為を忘れている。


「違う!俺の知ってるサリーさんはこんな人じゃない!貴方は他人には見向きもせず孤独に生きる女性。俺はそんな貴方をずっと見てきたはずだったの…」

「他人なんかじゃない!ニックも…貴方が銃を突きつけてるリチャードも…

私の大切な人なの…」


その場にいた全ての人が、彼女の言葉に耳を傾ける。


「こんなに人を愛したのも初めてだし、こんな最低な私でも信じて傍にいてくれる人がいるのかもしれないって実感したのも初めてだった!
他人なんかじゃない。私にとってふたりはもう、なくてはならない存在なの!!」

「………。」

「ジェームズ。貴方の気持ちは嬉しかったから…。お願い、ふたりを」









「…ざけんなよ」

「…ッ!?」

「ふざけんなよ!貴方の気持ちは嬉しかったって…そんな綺麗事で済まされると思ってんのか!?」


サリーに向かって怒鳴り散らすジェームズ。

その迫力に見ていた連中にも一歩足を引く者も。

リチャードの腹を抱える腕にも力が入った。


「待っ…」

「俺は…死ぬ気でこんな大事起こしてんだよ。もう後には引き返せねんだ!!」

「ジェームズッ!」

「どうやらさっきの言葉からして…貴方も俺を悪者としか思っていないようだな」


抱えているリチャードの頭から

サリーの心臓へと銃口の向きが変わった。


「…ッ!!?」

「俺は貴方をこんなにも想っているのに…貴方の為に事件まで起こしたのに。残念だ…」


引き金を引こうと指をかける。


「サリーッ!逃げろ!」


震えて足が動かない!

ニックの必死の叫び声もまるで聞こえず、全てがスローモーションに見えた。


その瞬間…





ガッ!



「ん!?」

拳銃を握っているジェームズの右腕が、何者かに強く掴まれた。

その腕を辿ると…


「サリーさんに…なんて物を向けてるんですか!」

「オマッ…」


腹を抱えられ、ぐったりと気絶していたはずのリチャード。

彼は鋭い目つきで、ジェームズを睨み付けていた。


「…許しませんよ。僕の大切な人に手を出したら!」

投げ出されていた左足を地面につけバランスを取ると、次は右足を大きく後ろに下げた。


「何を…!」

拳銃を再びリチャードの額へと戻そうとするが…



ガッ!!


「グァッ!」

後ろからふくろはぎに素早い蹴りを入れられ、ジェームズは後ろに倒れ込んだ。


バキューンッ!!


「「きゃぁぁあ!」」


その拍子に天井に銃弾が命中し、野次馬達が恐怖で声を上げ、その場から逃げだす者も。

緊張感に包まれていた廊下は騒然とする。


「貴様…!」

ガシャンッ!


咄嗟に床に落ちた拳銃を、今度は左足で遠くに蹴り飛ばす。


「リチャード!」


即座にジェームズを背中から抑えつけて動きを封じた。


「チクショッ!離せッ!離せぇ!!」


振り解こうと激しく暴れる。

必死に取り押さえるリチャードだが、先程のコーヒーに謎の薬を入れられた影響からか、体の動きが鈍く力が入りにくい。

このままではあと一分と持たない。




その瞬間…



「ッ…!」


最後に銃口が向けられたのは、ジェームズ本人だった。


「終わりだ。観念しろ」

リチャードが蹴った拳銃を、素早く拾ったニックが突きつけていたのだ。

そんな彼の顔を見上げてニヤリと笑う。

「フッ。教師が大事な生徒にこんな事をしていいんですか?」

「残念ながら俺はもうここの教師じゃねぇ。誰かさんのせいで、理事長に俺のたったひとつの秘密がバレちまったからなぁ」

「そうですか…」

ついに観念したのか。

その言葉を最後に、ジェームズはその後警察が来るまで一言も喋らず逃げもしなかった。


ジム(…なんで。俺…リーダーなのにこんな役…涙)


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