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……………
あれだけの事件があったせいか、リチャードは大した怪我もしていないのに医務室で寝かされていた。
保健医によると俺が飲まされたのは軽い睡眠薬だったらしい。
コーヒーにどうやら混ぜられていたようだ。
その薬のせいで一時的に意識を失ったが、こんなにも早く目覚めたのは奇跡だったという。
それだけ興奮状態だったのか…自分でもよく覚えていない。
コンコン!
そこで何度か扉を叩く音が聞こえた。
医務室の先生は不在で、この部屋にはリチャードひとりしか今はいない。
「どちら様ですか?」
彼がベッドの上から訊くと、扉はゆっくりと開かれた。
「…大丈夫か?」
部屋に入ってきたのはニック先生だ。
「先生…。どうしたんですか?」
「あぁ…お前に話がある。保健医はいねぇのか?」
「今は留守にしてます」
「そうか。なら丁度良い、ここで話す」
彼は開けた扉を閉め、小さな丸椅子を近くから持ってくるとリチャードのベッドの隣に置いた。
念のため窓とカーテンも閉めておき、その椅子に座る。
「悪かったな。この間はお前を怒らせるような事言って」
「それは…もういいです。忘れてください。それになんとなくわかってますから。貴方がサリーさんと別れた事を僕に教えた理由」
「………。」
その理由を聞きたいのか、返事がこない。
「貴方は理事長にサリーさんと付き合っている事がバレて、この大学を辞めなければならなくなった。そんな自分にいつまでも彼女を付き合わせたくない。
貴方は何故か…僕がサリーさんに好意を持っている事を知っていた。
だから自分以外の人と幸せになってもらうようにあえて最低の男を演じて別れ、彼女に好意を抱いている僕にその事実を知らせた。違いますか?」
「………。」
かがんで両手の平を握り合わせたまま、黙って彼の目を見つめたニック。
そしてその重い口からようやく真実が聞かされた。
「俺も…出来る事なら一生アイツの隣にいてやりてぇって思ってるよ。
ただ理事長に言われちまったんだよな。
『普通なら彼女も退学だが、君が彼女と完全に関係を断ち切ってこの大学からさえいなくなってくれれば彼女だけはここに残してやる。そうでなければ彼女もここから追い出す。学歴・資格…全てを取り消して』って」
「………。」
「そんな可哀想な思いをさせるわけにはいかねーだろ。今まで苦しい学生生活を必死に耐えてきたっつーのに…卒業前で退学なんて」
「ニック先生…」
ベッドに座っている彼が悲しげな視線を送る中、ニックは片手で頭を抱えて言葉を続ける。
「元々は俺が悪いんだ。彼女がまだ大学に入って間もない頃…俺が先に声をかけた。
最初はシカトばっかする生意気な小娘だと思っていたがな。傍にいるうちに、お互いかけがえのない存在に変わって…
最初に抱き締めた夜は、寝ても覚めてもアイツの事が頭から離れなかった。
俺が一生守ってやるって…そう決めたはずなのに…」
下を向いて、声が徐々に小さくなる。
毎日をなんとなく生きているような先生だと勝手に思っていたが、こんなに色々と考えていたなんて。
「頼む。アイツを幸せにしてやってくれ」
「……ッ…」
「アイツはひとりで強がってるような女だが…そうじゃない。ちゃんと隣で支えてくれる人間がいないとダメなんだ。俺にはもう…その資格がないから…」
「ニック先生…」
「頼む、この通りだ」
悔しそうにベッドに塞ぎ込むニック。
彼の本当の心の叫びに、リチャードは胸が張り裂ける思いだった。
その思い、決心を無駄にするわけにはいかない。
彼は今、自分を犠牲にしてまでサリーさんを守ろうとしている。
静かに悲しく時間は過ぎていく。
もう、外は夕方の時間の景色。
リチャードは頭を下げ続けるニックの姿を見つめて…ようやく口を開いた。
「 」
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