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……………

『サリーとリチャードは手を握り合い、遠い夕陽を見つめた。END』

「随分ベタベタなラストね。夕陽を眺めて終わりって、いつの時代のラストシーンよ」


台本の最後のページを読んだ彼女は、ベッドに寝転がりながら思わず独り言を呟いてしまった。

しかし最後まで読み終わって、やはりナイジェルの登場シーンはないんだと改めて実感すると、なんだか言葉に出来ないような切なさが体中を巡った。


「はぁ…」


コンコン。

そこで扉を叩く音が聞こえ、サラは閉じていた目を開いた。

誰か来たようだ。倒していた体を持ち上げる。


「どうぞ」

「お疲れさまです」


扉が開き、姿を見せたのは…さらりと下りてきたグレーの髪。

ナイジェルではなくリッキーだ。

確か最初辺りの日にも、こんな場面があったような。


「リッキー、どうしたの?」

「やだなぁ、今からふたりでラストシーンをやるんですよ。ちょっとでも打ち合わせしといた方が良いじゃないですか」

「あぁ…そうね」


確かにそうだ。

今は他の事を考えてはいけない時なんだ。

最後のシーンだし、やれるだけの演技が出来るように努力しておかないと。

サラはリッキーが座れるように自分の隣のシーツを綺麗に伸ばした。


「ありがとうございます」

「じゃ。とりあえず台詞の読み合いでもしようか」

「わかりました」


彼女の隣に座り、ほんの少しの時間だかラストシーンに備えて台詞の確認を始めたふたり。

その時間はリッキーにとって長いような短いような、説明のしにくい複雑な時間に感じられた。


















「さて。そろそろ時間ですね」

台詞の読み合いも大体終わり、リッキーは腕時計を見ながら呟いた。

丁度、頃合だ。


「それじゃ、行きま…」

すると何かに気がつき、リッキーの言葉が止まった。

サラがまだ台本を黙読している。

しかし、それは今まで一緒に読み合っていたラストシーンではない。



「…サラ」

「あ。ごめん、休憩時間終わりだっけ?」

「はい」


リッキーの返事が何故か突然冷たく聞こえた。


「リッ…」


「………。」


「……ッ?」



少しも笑わず黙って彼女の顔を見ている。

何か怒らせるような事でもしただろうか?

その原因がわからなくて、サラも黙ってリッキーの瞳を見つめ返した。


「…ごめんなさい。ちょっと考え事してて」

「そう。大丈夫?」

「はい」


そう答えるも、何故か妙に苛立っているように見えるその顔。

言葉が優しくて顔は笑っていても、目が笑ってない。

いつも笑顔を絶やさないリッキーだから、余計にそれがハッキリとわかった。


「行きましょう」

「え…えぇ」


足早に歩き出した彼の背中を追うように、彼女も慌てて控え室を出た。

それを開いたままにして…


サラがそのまま置いた台本。

そのページの場面は、ナイジェルが最後に演技をした医務室のシーンだった。


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