3
*****
「お疲れ様です、ナイジェルさん!」
「あぁ…今日も疲れたな」
このウィンディランのバイクスタントマンを始めて一年が経過。
最初はギクシャクしていたジムとナイジェルも今ではすっかり打ち解け合い、レースを終えて仲良く話しながら小さな部屋に戻ってきた。
今でいうメインルームのような場所だ。
「さてと…」
古いソファーに座ったナイジェル。
住んでいるのが男性のみだからか、あまり掃除をしている形跡はなく、隅にはホコリが溜まっている。
「ジム。リモコン取ってくれ」
「はーい」
その言葉にジムはテレビの上にあるリモコンを取り、彼の元へと持ってきた。
受け取った彼は足を組みながら一番上にある電源ボタンを押す。
「珍しいですね。ナイジェルさんがテレビを観るなんて」
「ちげーよ。ちょっとゴタゴタがあってな。近所のばーさんにドラマを録画してやらなきゃいけなくなったんだ」
「どんなゴタゴタがあったんですか…」
ジムが呆然としている中、何構う事なくナイジェルはテープを取り出しチャンネルを合わせだす。
「えっと…タイトルは……何だったかな…。
愛は……ん?
愛を…
あー……
愛で…
……………。
おい、ジム。
愛で地球は救えるのか?」
「ドラマのタイトル思い出してたんじゃないんですか!?知りませんよ、そんな事。100キロ走れば救えるんじゃないですか?」
その瞬間、放送していたシャンプーのCMが突然ニュース画面に切り替わった。
『こんばんは。この時間は予定を変更して臨時ニュースをお伝えします。尚、この後放送される予定でした「愛の24時間」の放送は急遽中止致します。大変申し訳ございません』
「「……………。」」
テレビ画面に現れたニュースキャスターの男性を見て固まるふたり。
「おい、なんだよソレ。やっべー、ババァになんて言い訳しようかな。『間違ってバイクでテレビを跳ねちゃった』よし、これにしよう」
「いや、確実にそっちの方が怒られますよ。そのまま『放送されなかった』って言えばいいじゃないですか」
だがなぁ…と眉をひそめてナイジェルはタバコの煙を吐いた。
『先週より宇宙人と思われる緑色の未確認生命体がシカゴ、ニューヨーク、ロサンゼルス等アメリカ各地に出没しております。
これにより近隣の住民がパニックを起こし、一部地域に避難勧告が出されております。繰り返します。先週より…』
「緑色の宇宙人…?」
新手のサイエンスホラーか?
何かの冗談だろ?とカレンダーを見てみるが、今日はエイプリルフールではない。
じゃ…事実なのか、これは。
思わずテレビに目がいってしまう。
『こちらがその生物の映像です。その生物は改造したバイクを激しい勢いで乗り回し、ラッパの音を鳴らしながら住宅地を駆け抜けています』
画面に映し出される未確認生命体。
その生命体は何故かひとりでバイクに跨がり、住宅地を滑走していた。
ヘルメットを被っていて、表情を読み取る事は出来ないが、確かに全身真緑色で体の動きもどう見ても人間の動きではない。
「へぇ…宇宙人って本当にいるんですね。ナイジェルさんはどう思います?」
「いるわけねーだろ、そんなもん。ソイツが本当に宇宙人だったら、勧誘して俺達の仲間にしてやんよ(笑)」
冗談半分で笑うナイジェルだが…
その彼の背後にゆっくりと足音が迫ってきていた。
「うん。良い走りをしていますね」
「うおっ!ビックリした」
ナイジェルが慌てて振り返ると、ふたりの後ろには深く何度も頷いている男が立っていた。
このウィンディランの社長だ。
「社長!?ビックリしたぁ…何を言ってるんですか?」
「だってプロのバイクレーサーの君達ならわかるでしょう?あの勢いのあるターボ、力強いジャンプに豪快なコーナリング。ウェイトもかなりあるようだ。彼ならきっと我々の世界でも通用する実力がありますよ」
「……ッ…」
そう言われてよく見てみると確かにそう…思わなくもない。
その謎の人物を見ている社長の目は、いつも以上に輝いている。
…嫌な予感がプンプンだ。
「いや、冗談ですよね?だって…あれは宇宙人ですよ?」
「………。」
「…聞いてない」
「社長さんよ。まさかコイツを雇おうとか考えてないっすよね?」
「え?何を言ってるんですか、ナイジェルさん」
「はぁ…そうっすよね。だっ…」
「今すぐ準備をしてください。出かけますよ」
「「…へ?」」
彼らを置いて部屋をさっさと出た社長。
あの人は面接で寝てしまう人間を採用してしまう辺り、普通の人間よりも感覚が少しズレている。
世の中のおかしいと思う事も、自分の許容範囲内なら全くおかしいと感じない。
その許容範囲が広すぎる事も問題なのだが…
彼がどこに出かけるかなんて、ふたりにはすぐにわかってしまった。
*****
ビッキー「まさか…この緑の宇宙人って言うのが」
ボビー「僕だよ☆」
ビッキー「オエェェッ!」
リッキー「こんなニュースになるだなんて…一体何をしてたんですか?」
ジム「実はコイツ、元暴走族なんだよ」
サラ「暴走族!?」
ナイジェル「自称…な。暴走族っつってもひとりだけだったし」
ボビー「僕は他人なんかに背中を預けたくない。孤独と風を愛する一匹狼(ロンリネスウルフ)だったのさ」
ビッキー「…ウザ」
ジム「確かこの後社長と散々走り回って、やっとボビーを見つけたんだよな」
- 188 -
*PREV NEXT#
ページ: