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……………
「あんまり気にしないで。あの人って普段からあんな感じだから。ちゃんと話したらわかってくれるんじゃない?」
「うん」
ナイジェルが自室に入った後、ジムとボビー、サラはメインルームの窓側に集まっていた。
ジムが慰めの言葉をかけてあげるが、彼女はすっかり黙り込んでしまっている。
「………。」
「あんまり落ち込むな、君!僕がいる限りきっと大丈夫さ!」
「あ…ごめん、別の事考えてただけ。大丈夫よ。ありがとう、ふたりとも優しいのね」
心配してくれる彼らに笑ってみせるサラ。
大人びた性格だと思っていたが、案外そんな顔もするのか。
「うん。もう一回、彼と話をしてみる」
「あぁ!気合いだ、気合い!そうだ!今日は僕が料理当番だから、君の為に美味しい料理を作って待っていてあげるよ!」
「え!?今日ボビーが当番なのか!?ちょっと待てよー、お前UFOしか作らないじゃないか!もういい加減飽きたぞ」
会話を聞いてクスクスと笑うサラ。
この人達は良い人そうだし、なんとかやっていけるかな。
そう頭の中で考えながら、再びあのナイジェルという男と交渉する為に歩き出した。
・
・
・
コツッコツッコツッ…
「…ッ」
ナイジェルの部屋へ向かう途中の階段。
サラが立ち止まったのは、タイミングよくお目当ての彼が前から下ってきたからだ。
「なんだお前、まだ帰ってなかったのか?」
彼も足を止め、タバコの煙を吐きながらサラの顔を見下ろす。
「私は仲間に入れてもらうまで帰るつもりはないから」
「チッ」
真っ直ぐなサラの視線にナイジェルは小さく舌打ちをして目線を逸らす。
一時、口を閉ざした後に再び彼女の顔を見た。
「何度も言っただろ。お前を仲間に入れる事は出来ねぇ」
「私、ここに来る為に家を出てきたの」
「……。」
彼女の言葉にナイジェルの瞳孔も少しだけ開く。
「ただの家出娘じゃねーか。親御さんが心配してるぞ」
「親は私の心配なんてしてない。母親は私が幼い頃に死んで、父親は会社の経営の事ばかり考えて私がバイクに乗る事自体野蛮だと反対してる」
「………。」
「私は純粋に走る事が好きなのに、あの人にとって子どもは自分の存在と会社を継ぐだけの存在。ただ『子どもなんだから親の言う事を聞け』って。
だから私は父親に認められるよう努力した。賞もたくさん取って周りからも一目置いてもらえるような存在になって。
なのに…父は何も変わらなかった。私の親族も皆同じ。頼りになる大人なんて誰もいない。だから私はここへ逃げてきたの」
ナイジェルは目を細めて何も返事をしない。
「途中でちょっと思い出してむしゃくしゃして…その…お酒をちょっと飲んじゃったり…悪い事もしたけど…。
でも私は心の底から貴方達と一緒に走りたいと思ったからここに来たの。
本当にごめんなさい。自分勝手なのはわかってるわ。
貴方が怒るのも怪しがるのも十分わかって…」
「はぁ…」
大きなため息をついた彼に、次はサラが目を丸くした。
「何がおかしいのよ?」
「俺はそういう事を言ってるんじゃねぇ。この世界は女のお前には危険が多すぎる。怪我でもしたら、お前は女としての生涯を全う出来なくなるかもしれねんだぞ」
「……ッ」
今まで彼女を拒絶していた本当の理由。
「俺達は元々汚ねぇ野郎共だから構いはしねぇが…女のお前は違うだろ?
これから結婚してガキ産んで家庭を支えて、女は男なんかよりやらなきゃいけねー仕事がたくさんあるんだ。
例えそうじゃなくても、女は傷を付けちゃいけねぇ生き物なんだよ。
お前がそれでも良いと言っても、怪我して後悔すんのはお前じゃなくて俺達なんだ。
お前の為思って言ってんだ。わかったら早く家に帰れ」
女に怪我をさせたくない。
それが本当の理由だった。
ナイジェルの言葉を聞いてサラは遂に無言になってしまい、肩と目線を同時に下げた。
ようやく…諦めてくれたか。
黙って突っ立っている背中を軽く叩いて、ナイジェルは彼女とすれ違い階段を再び下り始めた。
少し可哀想ではあるが、ウチには上も含め馬鹿しかいないから自分がこうするしかない。
きっとコイツもわかってくれるは…
「フフッ…笑わせないでよ」
「ッ…」
後ろから怪しい声が聞こえ、ナイジェルは思わず振り返る。
強い目つきで今度はこちらを見下ろしている彼女がそこにはいた。
「女だから怪我はさせられない、女は泥汚い仕事をする必要はない。悪いけど、私はそんな甘い世界で生きてきた人間じゃないから」
「……。」
「親や周りからも散々言われてきたわ。
『女のお前には無理だ』
『いい加減現実を見ろ』ってね。
体も傷が絶えないし、確かにどうしても女の私ではパワーやウェイトで男性に勝てなかった。
でも、それでも毎日毎日泥だらけになって特訓を続けて…私は今の地位を手に入れたの。お金や同情なんかじゃない。血を流すような努力で」
「………。」
「これからも、そのやり方は変わらない。私は今までそうやって強くなってきたんだから。
申し訳ないけど『女だから』なんてくだらない理由で私を納得させられるなんて思わないでよね」
「お前…」
複雑な目で彼女の顔を見つめる。
コイツの表情はその辺の女とはまるで違う。
踏んできた場数が違うのだ。
内側に揺るがない強さを持っている。
サラは数段下り、ナイジェルと同じ段に立った。
そして改めて丁寧に頭を下げる。
「私はこの場所で貴方達と一緒に走りたいの。お願いします」
「………。」
さすがのナイジェルも渋い顔で舌打ちをして目を逸らしてしまう。
言葉が返ってこなくて、この場所は静寂に包まれた。
その瞬間、ジムとボビーの言葉がふとサラの頭をよぎり…
「あ」
小さく声を漏らした。
…何かを思いついたらしい。
「言うの忘れてた。私酔って歩いてきたから、乗ってたバイクをお店に置き忘れちゃって(笑)ジムとボビーからも許可を得たし、とりあえず今日はここに泊まらせてもらう事になったから」
「…は?」
「お礼と言っちゃなんだけど、今夜は私が料理を作ってあげようと思って」
「料理?」
「嫌?」
「…勝手にしろ」
ナイジェルは一言低いトーンの声でそう答えると、足早にその場を去った。
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