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……………

コンコン!


「ビッキー?いるかぁ?」

「んもう、何よ。鬱陶しい!」

彼女が荒々しく扉を開けると、そこには青色の髪の男の姿があった。

彼と目が合った瞬間、眉間にあったシワがますます深くなる。


「またアンタ?しつこいのよ、毎日毎日!」

「いや、俺一応リーダーだからさ…」


ビッキーが仲間に加わって2週間。

相変わらず他のメンバーと関わらない彼女を心配して、ジムはちょくちょく…というかほぼ毎日様子を見に来ていた。


「どうだ?この生活には慣れたか?」

「見ればわかるでしょ」

「見えないから訊いてるんだろ?お前、レースが終わったらすぐ自分の部屋に籠もってしまうじゃん。
飯も一緒に食わないし、毎日コンビニの弁当食ってんだろ?あんまり体にも良くないぞ」

「そんなのアンタには関係ないでしょ!?」


はぁ…本当にどうしようもないな、最近の女子高生は。

そう思いながらジムは深く肩を落とした。


「なぁ、ビッキー。そろそろメインルームにも顔を出せよ。皆心配してるんだぞ?」

「んもう面倒臭い!そーいうの『お節介』っていうのよ!とにかくもう来ないで、邪魔なのよアンタ」

「テメッ(怒)さっきから黙って聞いてりゃ年上に向かって『アンタアンタ』って…せめて名前で呼べよ!」

「名前?」

ジムの言葉に目をぱちくりさせたビッキー。


「そうだ!まずそこから始めよう!ビッキー、俺の名前わかるよな?」

「アンタの名前…」


ギュッと目に力がこもる。

どうやら本気で彼の名前を思い出そうとしているらしく…


「ジ…」

「ジ?」

「…ジミー?」


カチン。


「ジミーってなんだ!?確かによく間違えられるけど!」

「…ジョニー?」

「違う!」

「ジョージア?」

「違う!!」

「…ジョナサン?」

「違う違う違う!どんどん遠くなってる!まさかお前…2週間一緒にいて俺の名前を覚えてないとか言うんじゃ…」

「馬鹿にしないで。サラ、ナイジェル、ボビー。ほら、全員覚えてるじゃないの」

「なんで一番短い俺の名前を覚えられないんだよ!」


思い返せばこの光景はここから始まった。

ビッキーはジムの名前を覚える事が出来ない。

それは今に始まった事ではないのだ。


「だって覚えにくいのよ、アンタの顔」

「顔は関係ないだろ!」


なんて言い合っている。

この光景は2年経った今でも消える事はないのであった。





……………





「はぁ…」

「あぁ、ジム。またあの小娘の所に行ってたのか?お前も毎日飽きねーな」


ビッキーの部屋からメインルームに戻ってきたジム。

その疲れた表情を見て、ソファーでタバコを吸っていたナイジェルが軽く笑いながら訊いてきた。


「まぁ…一応心配だからさ。彼女の方は相変わらずだよ。俺の名前すら覚えてなかった」

「マジでか。やるな、アイツ(笑)」

「笑い事じゃないっての!それにしても、どうやったら俺達に心を開いてくれるんだろうな」

「さぁな。ま、乙女心がわからねー俺らオッサンには一生無理なのかもしれねーな」

「はぁ。このままじゃ本当に先が思いやられる…」




「悩んでらっしゃるようですね」

「…わッ!」



ソファーに並んで座っていたふたりの背後に、いつの間にか心配そうな顔をして立っている社長がいた。


「社長!ビックリした…」

「やはりビッキーちゃんの事で色々と迷惑をかけてるみたいですね。すみません」

「いえ、そんな大丈夫ですよ!俺達も慣れてきたし」

心配をかけまいと、笑顔で手を横に振るジムだが

「いいですよ、無理しなくて」

「ッ…すいません」

彼には既に心の内を見透かされていた。

普段ヘラヘラ笑ってるだけにしか見えないけど、そういう所は勘が働くんだな。


「しかし困りましたね。ここまで心を開いてくれないとは僕も正直思っていなかったもので。全く…どうしたら良いものか」


社長も腕時計のついた右手を顎にやり、目線を上げて考え込んでいる。

確かにここまで来ると「彼女をメンバーから外す」という選択肢が濃くなってくる。

元々入りたくない彼女を俺達が無理やり引き入れたのだ。

嫌がる彼女にこのまま続けさせるのも、正直こちらの気が重い。

どうしたら良いのやら。



「どうしたんだい?冴えないオッサンズが更に冴えない表情を浮かべて」

そこでフラッとメインルームにやってきたのは、脳天気男のボビーだ。


ナイジェル「悪かったな、冴えまくる男がひとりもいなくて」

ジム「ビッキーがどうやったら俺達に心を開いてくれるか考えてたんだよ。ボビー、何か案はないか?」


ダメ元でとりあえず訊いてみた。

まぁ。相手はこのボビー(宇宙人)だ。

最初から大した答えは期待していな…


「そんなの簡単だよ」

「「えっ?」」

彼のあっけらかんとした答えに、思わず3人同時に顎から手を離した。


「だってこのチームにはイケメンの僕がいるじゃないか!彼女も今は強がっているけど、きっと王子様の僕の所へ舞い戻ってくるはずさ!」

「「…………。」」

「それじゃ、僕は君達ほどクソ暇野郎じゃないから失礼するよ!さらば★あはは!あはははは!あはははッ…ゴホッ!ゴホッゴホッ!」


ボビーは咳き込みながらその場を去って行った。


「なんだ…あれ…」

「アイツに訊いた俺が馬鹿だった。忘れよう。ん?」


「〜〜〜〜〜〜…」


後ろからブツブツとおぞましい念仏が聞こえてくる。

ジムとナイジェルが同時に後ろを振り返ると…


「イケメンか…。イケメンイケメン……ん…イケメン?…うーん…」


社長が何かに取り憑かれたように、ひとりで怪しい呪文を唱えている。


「あの…社長さん?」

「イケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメンイケメン…」


ぽかんとしている彼らをよそに、男はくるりと背を向けて呟きながらフェードアウトしていく。

「な…なんだ?」

「さぁ。ついにボビーの呪いにかかったんじゃないのか」


挨拶もせずに行ってしまった社長だが…まぁ、いつものおかしなあの人の事だ。

あまり気にする様子もなく、ふたりでまたビッキーの件についての話し合いを再開した。


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