……………

6人の乗ったワゴン車が向かったのは、毎月行われる定例ミーティングの会場ではなく…

大きな音楽事務所建物前だ。

どうやら美空の電話を断り切れなかったサラの頼みにより、ミーティングを延期してここへ来てしまったらしい。


「ったく…なんで会議を延期してまで、またアイツに会いに行かないといけないんだ」

「ごめん。でも緊急で来いとか言われたし」

「そんなの無視しちゃえば良かったのに!」

「…………。」


珍しく何も言い返せないサラはシートベルトを外してワゴンを降りた。

元気のない彼女にジムも調子が上がらず、顎の辺りをポリポリと掻く。


「…ま、ここまで来たんだから行くしかねぇだろ」

そんな不穏な空気の中、ナイジェルだけがのんきに足を動かし始め、全員が建物の中に入った。








「いらっしゃーい。待ってたよ」


呼び出された番号の部屋。

当の美空は偉そうにソファーに座ったまま軽く手を振って6人を出迎えた。

見たところ、他のメンバーの姿はない。

どうやら部屋の中にいるのは美空ひとりだけのようだ。


「何?緊急な用事って…」

サラが訊くと美空はテーブルに落ちている輪ゴムを拾う。

そしてそれをクルクルと回しながら、とんでもない事を口にした。


「うん。あのさ皆。来週から一週間、僕達のマネージャーになってよ」


「………。」


「「はぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」


これにはさすがに我慢出来ず、全員が声を上げた。


ジム「テメッ…急に呼び出してきたと思ったら、いきなり何を言い出すんだ!?ふざけるのもいい加減にしろよ!」

「だって仕方ないじゃん。専属マネージャーが来週から研修で外国に行ちゃうらしいから」

ビッキー「だからって何で私達!?そんなの別の音楽関係者に頼めばいいじゃん!」

「皆、落ち着いて!」

サラが思わず止めに入るが、ジムやビッキーはもちろん納得する様子はない。


「だってよサラ。無茶苦茶すぎるだろ、いきなりマネージャーをやれって。もうコイツの我が儘には付き合ってられるか!」

「えぇ。わかったからちょっと落ち着いて。
七音、私達も私達の生活があるの。仕事もプライベートも皆それぞれ忙しくて、貴方の面倒ばかり見てられるわけじゃないのよ。
申し訳ないけど、それだけは出来ないわ」

「………。」

黙ってサラの顔を見た後、輪ゴムをぽいっと床に落とす。

ソファーからようやく立ち上がり、赤いネクタイを緩めながら美空は彼女の前に立った。


「貴方の周りだったら、もっと優秀な代わりのマネージャーがいるでしょ?」

「だってさぁ、この業界の音楽マネージャーって皆一緒でつまんないんだもん」

「そういう問題じゃ…」


「「……………。」」


「あっそ。じゃ、サラさんの恥ずかしい過去話を、今ここで皆に聞かせてもいいんだぁ?」

「………ッ!?」


突然、彼女の顔がリンゴのように真っ赤になった。


「…サラ?」

全員の視線がその人物へ集中。


「ねぇ?やるの?やらないの?」

「だからそれは出来ないって…」

「あのねー!サラさんねー!高校の文化祭の時に…」

「ちょっ…待っ、ストップストップ!わかった!やる!やればいいんでしょ!?」







「「ちょっと待てぇぇ!!!」」


あっさりとOKを出してしまったサラに、再び大声を上げた他メンバー。


ジム「ちょ…サラ!?お前何言ってんだ!?本気かよ!?」

リッキー「そうですよ!いくらなんでもマネージャーなんて無理ですよ!」

ナイジェル「俺も…賛成出来ねぇな」

ボビー「大丈夫!サラちゃんの恥ずかしい過去を知ったところで、僕らの友情はなんら変わらない!」

サラ「やるったらやるの!たった一週間じゃない!職場体験じゃん!もう一回職場体験やると思えばいいじゃん!」

ビッキー「大丈夫!?そんなに焦り狂う程、知られたくない恥ずかしい過去なの!?」



「はいじゃ、決定〜♪」

静まり返る部屋の中、パチパチとひとりだけの拍手が響いた。

その馬鹿にしたような拍手のリズムさえ、今はイラッとする。


「大丈夫だよ。マネージャーって言っても難しい仕事じゃないし。お手伝いさんみたいなもんだよ」

「………っ…」

ヘラッと笑う彼に、全員が眉を吊り上げた。


「じゃ、来週からよろしくね。ウチのバンドメンバーにも伝えておくから」

いきなり素人をマネージャーに選任して、この男は一体何を考えているのだろうか。

美空は用件が終わると、何も言い返せない6人を置いてさっさとその部屋を出て行ってしまった。



「ご…ごめん…」


再び静かになった部屋の中、サラはどうしようもなく全員に頭を下げた。


「「………。」」

そんな彼女を叱れる人間などここにはおらず、一時無言の状態が続く。


「ま…なってしまったものはしょうがないか」

リーダーのジムは前に出てサラの肩を軽く叩く。


「たまにはバイクを忘れて、他の事に没頭するのも良いかもしれないし」

「……。」

「それもそうだね。よく考えればweather lifeのマネージャーが経験出来るなんて、こんなレアな事はないよ!」

「ビッキー…」


サラの傍に駆け寄ってくれた彼女も明るく笑って励まそうとする。

そんな姿を見て、ジムはリッキーとナイジェル、ボビーにも目を向けた。


「お前らも反論はないな?」


彼らもお互いの目を合わせ、仕方なく笑って首を縦に振った。


「よし!じゃ、俺ら6人マネージャーデビュー決定だ!その代わり、終わったら今度サラに全員分の焼肉を奢ってもらおうぜ!」

「ちょっ…何勝手に決めてんのよ!」


「楽しみだ」と笑う彼に、ようやくサラにも笑みが零れた。

こうして一週間の期間限定として、ウィンディランの6人は美空率いるweather lifeのマネージャーを務める事が決定。


これから何が起こるとも知らずに、

「頑張ろうぜ」

と、お互いの肩を強く叩き合った。


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