12


……………

マネージャー生活5日目。

一同がやってきていたのは歴史ある市民会館。

本日はオーケストラのレッスン日となっており、美空が指揮や指導を担当する予定。


そこに集まっているのは、仕事をこなしながらトランペットを吹くサラリーマン。

趣味でクラリネットを始めた中年男性。

以前、一流オーケストラに所属しながらも挫折したが、もう一度音楽に人生をかけてみたいと再びバイオリンを握った女性。

老若男女、様々な事情で集まっている

いわゆるアマチュアオーケストラ組だ。


「39…40。はい、全員集まっています」

リッキーがひとりずつ顔と名前を見合わせて、会場に奏者全員が集まった事を確認した。

しかし肝心の講師、美空はまだこの場所に姿を見せていない。

どうせ、また今日も遅刻なのだろう。


「どーするか?もうそろそろ予定していた練習時間だぞ」

「やむを得ません。七音が来ていない間は僕が代わりに指揮を務めます。アイツが来たら、ここに連れて来てもらっていいですか?」


ジムにそう説明すると、雨宮は代役として指揮台に立った。


「指揮を担当する美空がまだこちらの会場に到着しておりませんので、それまでは代わりに僕の方で指揮を取らせていただきます。
では『新世界交響曲 第3章』から始めましょう」



「俺達はどうする?玄関で七音を待っておくか?」


楽器の音が曲を織りなし始めるのと同時にサラは頷いた。

「そうね。いつ来るかわからないけど、とりあえず行きましょう」

綺麗な音色が耳に入る。

6人は会館の出入り口へ足を運んだ。






……………






〜♪

二流楽団がレッスンを行う会館は、楽器を弾く専用に作られた建物ではない。

漏れている曲を聴きながら、ジム一同は美空がやってくるのを玄関で待っている。


「遅いね。もう1時間は経ってるよ」

「いつもの事だろ。1時間で来たらまだ良い方だ」

ナイジェルはコンビニで屯している若者のようにだらしなく座り、タバコを吸っている。



「お待たせー♪」

それから数分後。何食わぬ顔をして本日の指導者がスキップしながらやってきた。

いつも通りの生意気な軽い口調で、反省の色は見られない。


「おーそーいー!何やってたの、もう皆待ってるんだよ!」

「ビッキーちゃんったら、そんな可愛い顔して怒っても恐くな〜い。ちょっと髪型のセットがイマイチ決まらなくてさぁ。ごめんね!」

「謝るくらいならいっそスポーツ刈りにしなさい。それより今、七音の代わりに雨宮君が指導してるわ。早く行って」


反省していない美空の背中をサラが叩いた。


「そんな急かさないでよ、今来たばっかじゃん。ちょっとくらい休け…」

「お前またそんな事言ってサボろうとか考えてんじゃないだろうな?」

「……………。」


ジムの言葉に突然黙り込んだ美空。

なんだ?キレてるのか?


「オイ、返事くらいし……?」



トン…

トン…



足下から聞こえた微かな音に思わず目線を下げる。


何故か美空が足のつま先で地面を叩いていた。


何度も

何度も


狂いのない一定のリズムで。


「どうした?」

「邪魔。退いて」


前に出て話しかけてきたナイジェルの肩を押し出し、待ってくれていた6人を置いて彼は玄関から中へ勝手に足を進めて行く。


顔を見合わせるそれぞれの耳には、会館外へ漏れるオーケストラの演奏が聴こえていた。


- 213 -

*PREV  NEXT#


ページ: