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……………
その後もライブは順調に進んだ。
ヒット曲も完璧に歌い、今の所目立ったミスや問題もない。
観客の熱も冷める事を知らず、会場内は倒れる人が出るんじゃないかと心配になる程熱気に包まれていた。
ウィンディラン6人も裏方でスタッフの手伝いをしている。
何もかもが順調に進んでいた。
ただ、心配な事がただひとつ。
客席番号
G11「○」
G12「 」
G13「 」
G14「○」
G15「○」
既にライブが始まって1時間は経っているにもかかわらず、美空の両親が未だにこの場所へ姿を現していない。
……………
「お疲れ様!ほら、タオルだ」
「ありがとうございます!」
30分に一度取られる3分間の休憩。
ステージ裏でジムからタオルを受け取ったweather lifeは、汗の滴る顔を拭いた。
美空の表情にもいつもの小生意気さは感じられない。
やはり両親の姿が見当たらないからか…
なんとなく暗い表情だ。
全員もそれになるべく触れないように
「あの曲好きなんだー」
「でしょでしょ!?」
なんて全く関係のない会話をしている。
「…………。」
そんな光景を見ても、口を開く様子がない美空。
その時ツンツンと背中を誰かにつつかれ、振り返ると
「…ディ?」
クラウディが黙って美空の携帯を指さしていた。
「なん………ん?」
自分の携帯が何やら光っている。
「ッ…!」
慌ててそれの元へ走り、すぐに中を確認する。
彼のただならぬ様子に、さすがのメンバー全員も黙って携帯を握っている美空の背中を見た。
そして、パタンと静かにそれを閉じる音。
「…間に合わないかもしれないって」
「………ッ…」
重苦しい空気が漂う。
「僕のお袋と親父…天候が悪くて飛行機の出発が遅れたらしい。なんでかな。僕達の原点でもある『天気』が、まさかこんな所で邪魔をしてくるなんて」
呟くボリュームの小さい美空らしくない声。
「ヒーちゃんも…ミヤ君もユキもディも…そしてマネージャーさん6人も…本当は知ってんでしょ?僕と、僕の両親の間で何があったのか」
「………。」
「あんな分からず屋の親父なんて…いつ縁を切ったっていいと思ってた。そんな親父に付いていくお袋も一緒。
自分でわかってる。
僕には音楽しかない。
音楽が僕の全てだって…
だから他のものは全部、音楽の邪魔をする不必要なものだって思ってた」
不穏な空気に全員が黙り込んでいる。
「僕が勝手にこっちに来て、初めて親父が鬱病にかかったって聞いた時は…正直なんとも思ってなかったよ。
ガンみたいに死ぬような病気じゃないし、お袋が看病してれば勝手に治るだろって思ってた。
でも…それから何ヶ月か経って…お袋から電話がかかってきたんだ。
泣きながら、親父がベランダから飛び降りようとした事とか、部屋から急にいなくなって夜中何時間もかけて必死に探し回ったりした事とか…
親父…ずっと僕の名前を呟いてるって」
「…………。」
「それを聞いて初めて…怖くなったんだ。
親父とお袋をここまで追い詰めたのは、自分なんだって気づいて…
突然足の震えが止まらなくなった。
帰ってきて欲しい、七音と顔を合わせればお父さんだって元に戻ってくれるってお袋から泣いてせがまれたけど…
僕は咄嗟に電話を切ってしまった。
怖くて…目を背けたくて…
結局僕は音楽に逃げたんだ。
それから一度も連絡を取ってなかった」
ライブ会場の熱気からは想像も出来ない
裏側の静けさ。
「それからずっと後悔してたよ。
ピアノを見ると親父の事を思い出してしまうし、
そして思い出してしまう度に、絶望の底へ突き落とされる気持ちになった。
でも今日…そのふたりが初めて僕のライブに来るって。
最初は躊躇したけど…
僕、決めたんだよ。
もう逃げたくないって。
だから、親父とお袋に恥ずかしくないライブを見せる為に今まで必死に頑張ってきたのに。
3時4時まで歌って疲れて立てなくなって、起き上がれなくて気持ち悪くなってしまう程…あんなに努力したのに。どうしてこんな事に…」
再び俯く美空。
その両親が、特別になるはずの自分のライブに間に合わないかもしれない。
他人が聞いたらライブ後に会えば良いじゃないか、と思うかもしれないけど…
そのような問題ではないのだ。
「時間だ。ステージに戻れ」
「…ッ…」
ナイジェルの言葉にふと時計に目をやると、既に再開1分前となっていた。
「ナイジェルさ…」
「お前に今やれる事はなんだ?ステージをほったらかして、こんな所で黙って突っ立ってる事か?違うだろ?」
「……。」
呆然と立ち尽くす背中の後ろから、時計の秒針がチクタク鳴っている。
「両親にしっかり生きている自分の姿を見てもらいてーんだろ?
お前は確かに親不孝をした馬鹿息子だ。
でもそんな最低なお前にも、観客席には待ってる大勢のファンがいんだ。
お前だからこそ…お前にしかないチャンスが絶対にある。
だからいつでも親父さん達を歓迎出来るように最高のステージを作っておけ。それが今のお前に出来る事だ」
「……ッ…」
黙ってナイジェルの顔を見ている美空だが、その拳は強く握られていた。
「ナオ君、そぉだよ!この最高のステージを作れるのは僕達だけなんだよぉ」
「ユキ…」
雪之原の優しく赤い瞳を見つめる。
「そうっすよ!親父さんとお袋さんに立派になった俺達の姿を見てもらおうぜ、美空さん!」
日晴は黄色の瞳をキラキラ輝かせて…
コクリと頷いたクラウディの空色の瞳を見る。
「最後の一曲まで…父さんと母さんが来る事を信じて歌い続けよう」
ミヤ君は僕の肩を握って、深い蒼色の瞳を向けた。
「ぁぁッ…」
絞り出す声と共に頷いた美空。
自分の我が儘にここまで付き合ってくれた仲間達。
散々無茶な事を言って困らせたり、サボッてはよく怒らせていたけど…
それでも自分にはコイツらしかいない。
いや、こんな僕に合わせられるのは…
コイツらを置いて他にはいないんだ。
どんなに才能があったって
この4人がいなかったら、多分自分はこのステージに立てなかった。
「ユキ…」
「……っ…」
「ヒーちゃん……ディ…」
「…………。」
「…ミヤ君ッ……」
「………っ…」
「ありがとう」
美空の口からそんな言葉は初めて聞いた。
少し照れながらも、でもその言葉を言わずにはいられなかった彼に…
4人は優しく微笑んだ。
「さ!時間だ!客も待ってるぞ!」
「思う存分歌ってこい!野郎共!!!」
ジムとボビーの言葉にそれぞれは大きな返事をし、パートナーの楽器や道具を持った。
仲間達に小突かれながら歩き出す美空の後ろ姿は、なんだか当初出会った頃よりほんの少しだけ大人になったように見えた。
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