20
……………
一曲また一曲と歌い終わる度に、時間も刻々とラストへ迫っていた。
しかし美空の両親が座るはずの席は、未だに大量の人が並んでいる中でぽっかりと穴が空いている。
【間に合わないかもしれない】
そのメールの文字が頭の中に蘇る度、考える力を歌う力に転換してなんとか冷静さを保とうとする。
クラウディのドラムが綺麗に音を締め、また一曲、歌が終わった。
出入り口の扉が開く時は、大抵トイレに立つ観客が出入りする時ばかり。
「七音君のお父さんとお母さんが来るの…あの席だよね?」
「まだ来てないのか。あと20分で終わりだぞ」
腕時計を見たナイジェルの顔が険しくなっている。
ブーッ!
ブーッ!
「…?」
そこで突然、どこからか何かの震える振動が伝わった。
「携帯のバイブ音…?」
一定感覚で鳴り続けるバイブ。
「まさか…七音の携帯か!?」
ジムが七音の鞄を退けると、その下敷きになっていた白色の携帯が発見され…
案の定、激しくバイブを鳴らしている。
「電話だ!どうする?」
「でも、勝手に出るわけには…」
これにはさすがに躊躇するビッキー。
その間にも携帯は「早く出てくれ」と言わんばかりに激しく震え続け…
「貸して」
「え…でも」
「いいから!」
サラが無理やりジムから携帯電話を取り上げた。
仲間が止めようとするのも構わず、通話ボタンを押し…
「もしもし。美空七音の携帯です」
『………ッ…』
迷いなく電話に出たサラ。
一方の相手は七音ではない女性の声に、一瞬戸惑っている様子だったが…
『サ…サラちゃん?』
七音の母親の声。
彼女には最初の一声でサラの声だとわかったらしい。
コンサートや音楽家のパーティー等でお世話になった大企業の娘さん。
今は家を出て、独立した生活を送っていると聞いていたが…
『どうして七音の携帯に貴方が?』
「すみません。話すと長くなるのですが…今、私は七音のコンサート会場にいます」
電話越しの声が聞こえなくなる。
きっと口をぽかんと開けたまま、言葉を出せずにいるのだろう。
『あのっ…七音と代わってもらえる!?今すぐに話したい事があるの!』
「ごめんなさい。今、彼はステージに出ていて電話には出られません。用件なら私が聞きます」
『でも…』
「私は今おふたりが置かれている状況もわかっています!七音が力になれない代わりに、私達が力になってあげられます。安心してください」
『っ…』
状況がよく掴めないが…
『実は…』
どうこう迷っている暇はないの。
誰でも良い。今すぐ、助けて欲しいから。
・
・
・
「え…?」
話を聞いたサラは思わず携帯を落としてしまいそうになり、咄嗟に両手で握った。
「どうしたんだい!?」
電話中にもかかわらずボビーが訊くと、彼女はそっとそれから耳を離した。
「七音のお父さん…突然いなくなったって」
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