21
……………
ついに課題だった曲を全て歌い終えてしまった。
残されるのは…観客から求められるアンコールのみ。
いつものようにステージから去って、
客席から溢れんばかりのアンコール。
そして普段通りにもう一曲熱唱してしまえば終わり。
「ありがとーッ!!!」
それだけの時間しか残されていないのに
未だに両親の姿が自分の目に映っていない。
いや…まだだ。
最後の一曲まで信じようって…
5人で誓ったんだ。
来る。
親父とお袋は…
僕のステージに必ず。
「七音!大変だ!」
階段から裏側へ降りていると、ジムさんを先頭にマネージャー6人が慌てて走ってきた。
「どうしたの?」
「ご両親がもうすぐそこまで来ているらしいが、お前の父親…急にいなくなってしまったらしい!」
「ッ…」
メンバー全員の頭の中が真っ白になった。
「っどうして…!?親父…!」
「知らない土地に来てパニックになったんだと思う。今まで何度か突然フラッといなくなった事があったでしょう?母親が少し目を離した隙に、どこかへ行ってしまったみたいなの!」
「そんなっ…僕、探して来る!」
「ダメよ!ほら!この声が聞こえないの!?」
ビッキーの言葉に耳を澄ますと…
観客席から湧き上がる、止まる事のないアンコールが。
「じゃぁ…皆、お願い!親父を探して!」
「そうしてやりたいけど…俺達はこの辺りの土地鑑はまるでないし、第一お前の父親の顔もわからない。だから大変なんだよ」
ジムが深刻そうに顔を下に向ける。
6人も力になれず、そして一番駆けつけてやりたい息子も
今だけはどうしても抜ける事が出来ない。
「ッ…」
悔しくて涙が零れた。
この姿をアメリカに到着したばかりの僕が見たら、一体どういう顔をするだろう。
父親となんか、いつ縁を切ったって構わない。
鬱病だなんて、ただの引きこもり病だろ。
働きたくない、ずっと家にいたいなんていう…
「病気」なんて偉そうな名前を使った、ただの我が儘。
父親が弱かっただけで、僕には何も関係ない。
しかし、そう思っていた自分が…
今、その父親の病気を恨んで…
何もしてやらなかった自分に腹を立てて…
ボロボロと泣きべそをかいている。
きっと鼻で笑うだろうな。
あの頃の僕。
「僕達が行きます」
「……ッ…」
涙を堪えるのに必死で、最初誰が言ったのかわからなかった。
「僕達ならここで前からライブをやっているので土地鑑もありますし、七音の父親の顔も知っています」
ミヤ君だった。
そしてユキ、ヒーちゃん、ディが続けて頷いた。
「でも…アンコールは?」
ジムさんが言葉にならない僕の代わりにその質問をしてくれる。
「大丈夫です。七音がいるから」
「………ッ…」
言った意味がわからずに、美空は大きく目を見開いた。
「ちょ…ちょっと待ってよ!僕ひとりだけにアンコールをやらせるつもり!?
無茶言わないでよ!そんな…楽器もなし、たったひとりだけ、それにリハーサルも全くしてない!
そんな無茶した事ないし、出来るわけないじゃん!」
必死に雨宮の袖を掴む美空。
「なんだよっ…今まで散々僕達に無茶させてきたくせに」
眼鏡を親指で上げ、意地悪そうに笑う彼。
「だっ…」
「大丈夫だよぉ、ナオ君。すぐにお父さんとお母さんを連れて戻ってくるからぁ!」
「ユキも…そんな!」
「美空さんは天才なんっしょ!?絶対ぇ出来ますって!」
「それとこれとは話が別…」
ポスン、とミヤ君が僕の頭に手を乗せた。
「これ以上…後悔したいのか?」
「……ッ」
その言葉が深く胸に突き刺さった。
ミヤ君はそっと僕の頭から手を離して出口へと歩き出す。
3人も彼に続いて…
「絶対…連れてくるから」
何も言い返せないまま、扉が静かに閉まった。
残されたのは僕と、マネージャー6人だけ。
「七音…」
名前を呼んでくれたサラさんを見る。
「行って」
「でも…」
「迷ってる場合じゃないの!雨宮君達の気持ちを無駄にするつもり!?」
ジムさんとビッキーちゃんに無理やり背中を押される。
「ちょっ…待ってよ!」
「いいから行けって!」
最後にナイジェルさんから背中を蹴られ、転びそうな足でステージに放り出された。
「……ッ…!」
おかしな登場の仕方。
不思議そうな視線が、何百と自分ひとりだけに突き刺さってきた。
リハーサルなし。
楽器もなし。
おまけにステージにはたったひとりだけだ。
先程の余裕が嘘みたいに、緊張で足が震えてきた。
さっきまで仲間だった奴らから、一気に裏切られて全員が敵になった気分。
僕を見ないで欲しい…!
お願いだ、見ないでくれ!
「……………。」
黙っている美空に徐々に観客達がざわつき出す。
そうだよ、
僕は自分の絶対音感という才能を武器にしてきただけ。
でもその才能もひとりだけだったら何の意味もないんだ。
今までどれだけ仲間任せにしていたのか…
僕だけでは何も出来ない。
ステージに立っても声が出ないのが、その証拠。
「何で黙って立ってるんだ?」
「他のメンバーは?」
「あまみーは?私はあまみーを見に来たのに、アンコールはいないの?」
何分もマイクの前に突っ立っていると、観客からの話し声がますます耳に入り出す。
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