2
……………
とある平日。
レースを終えたウィンディランメンバーは私服に着替え、他愛のない話をしながらメインルームへ戻ってきた。
「あぁ今日も疲れたぁ。今日の食事当番誰だっけ?」
「はぁーい!私だよ☆」
ジムの言葉に、仕事の疲れを感じさせないビッキーが元気よく手を上げた。
「腹減った。早く作ってくれ、手抜きすんなよ」
「大好きなリッキーに手抜き料理なんて作るわけないでしょ!今日の料理は照り焼きチキンよ!待っててね、リッキー!」
キッチンへ走るビッキーに、ナイジェルが「全員分作れよ」と消えそうな声を漏らす。
普段と変わらない光景。
この瞬間までは…そうだった。
コンコン!
「ん?客か?」
玄関から扉を叩く音が聞こえた。
コンコン!!
扉の向こうの人間が早く開けてくれと何度もドアを叩いている。
こんな平日の夜に珍しい。
どうやらせっかちな客のようだな。
「私、出るわよ」
そこで玄関に一番近い位置にいたサラが、扉の方へと歩き出す。
廊下に響く彼女の足音。
何も疑う事なく、不用心に扉を開く。
「はい、どちら様で……」
瞼を上げた瞬間、
サラの瞳孔が突然大きく開いた。
「キャァッ!!!」
「「…ッ!?」」
玄関から聞こえた悲鳴。
和やかだったメインルームが一瞬にして緊張に包まれた。
「サラッ!?」
やっていた全ての作業を停止し、慌ててその場所へ走る男4人。
「サラ、どうしっ…」
玄関にはひとりの男が立っていた。
彼女がこちら側へ助けを求めるように走ってきて、ナイジェルの腕に掴まる。
どうやら外傷はないみたいだが…
その男の顔に全員が一瞬呼吸を忘れてしまった。
思い出す、あの日の光景。
鳴り止まない銃声に、冷たく恐ろしい狂気に満ち溢れた目。
あれはサラのあの一言から始まった。
『見合いするの、私』
ロビン・ジャックマン。
その男だった。
以前親同士の決断で行われた、セレブ家系ヒル一族とジャックマン一族のお見合い。
その時のサラの相手だ。
一見、金髪で気品溢れるヤサ男だが
裏の顔はサラの実家の会社を乗っ取り、彼女を始末しようと企てていた極悪人。
あの事件以降、警察に逮捕され刑務所に入れられていたはずなのに…
俯いていたロビンの瞳がこちらに向けられ、全員が一歩下がる。
怖い。
言葉には出さないが、あのいつも余裕面のサラが怯えて手が震えている。
「隠れてろ」
ナイジェルは彼女を背中に隠し、ロビンをギロリと睨みつけた。
「復讐にでも来たのか、テメェ」
「…………。」
彼は立ち尽くしたまま何も答えない。
このふたりは当時、壮絶な銃撃戦を繰り広げており、お互いの恐ろしさを知っている。
睨み合ったまま数秒が経過し、ついにロビンがその口を開いた。
「臭い」
「…は?」
グッと力を入れ、
ブワッ!と男は宝塚のように大きく両手を開いた。
「貧乏臭い!!君のそのオーラ…貧乏臭すぎるよ!!!!」
「「………。」」
これにはナイジェルだけではなく、何事かと全員が目をパチクリと瞬き。
ロビンの背景には赤い薔薇が散りばめられ、キラキラと星屑が舞っている。
「ああああ〜ん!ダーリン☆」
「え…お前ッ…わっ!!」
次の瞬間、ナイジェルが突然襲ってきたトドに押し潰された。
後ろに隠れていたサラは咄嗟に彼から離れたらしく、次はジムの後ろに隠れている。
「おもっ……重いです……すんません、降りて…」
「イヤーン!相変わらずこのだるい雰囲気がたまんな〜い!」
明らかに彼より質量がありそうな体で押し潰して締め上げる。
この、おばさんパーマで中年太りしたアゲアゲテンションのエプロン女性。
彼女はロビンの母親だ。
息子とグルになり同じようにサラの会社を乗っ取ろうとしていた、もうひとりの犯人。
以前は金に目がくらみ、理性さえ失っていた彼女だったが…
笑顔でナイジェルをひねり潰している様子から、今はそのような悪意は感じられない。
ロビンの言葉に母親の登場にと訳のわからない事態が続き、4人は状況が掴めないままただ玄関に黙って突っ立っている。
「あの…何しにいらっしゃったんですか?」
ようやくジムが話しかけると、その質問に歯をキラリと光らせてロビンがこちらを見た。
「あぁ、刑務所とかいう小汚いホテルに泊めさせられて約一年…」
リッキー「ホテルじゃないですよ」
「私のこの美貌と、知恵と権力…そして財産のおかげで、彼らはようやく我々を解放してくれたんだ!」
ジム「要するに…保釈金を払ったんですね」
「しかしこの世界に戻ってきたのは良いが、会社と自宅の前にイエローテープが張り巡らされ、我々は新たなる旅を命じられた」
ボビー「差し押さえられたんだ」
「そうして友を渡り歩き、流れ着いた場所がここだったのさ☆」
ナイジェル「つまり無一文になり、知人にも見放され、最後に辿り着いた場所がここだったって事か…」
「ちょっと待ってください!」
状況は理解出来た。
理解は出来たが、もちろん納得は出来ない。
リッキーが思わず身を乗り出す。
「そちらが大変な状況にある事はわかりました。
わかりましたが、貴方達が以前サラに何をしたかわかってるんですか!?
サラだけじゃありません、俺達全員が命の危機に晒されたんですよ!
そんな人を『じゃぁ、仕方ないですね』と簡単に受け入れるわけないでしょ!」
普段は温厚な彼が、珍しく口調を荒くしている。
仲間を守ろうとする気持ちが伝わったのか、後ろのジムの表情が緩んでいくのがわかった。
が…
「まぁそう焦るな。あそうだ。さっきから来る途中、子猫が付いて来て困っているのだが…どうしようか」
リッキー「どうぞ、お入りください」
ジム「オイーッ!お前の意志の弱さ!!」
- 229 -
*PREV NEXT#
ページ: