……………

とある平日。

レースを終えたウィンディランメンバーは私服に着替え、他愛のない話をしながらメインルームへ戻ってきた。


「あぁ今日も疲れたぁ。今日の食事当番誰だっけ?」

「はぁーい!私だよ☆」

ジムの言葉に、仕事の疲れを感じさせないビッキーが元気よく手を上げた。


「腹減った。早く作ってくれ、手抜きすんなよ」

「大好きなリッキーに手抜き料理なんて作るわけないでしょ!今日の料理は照り焼きチキンよ!待っててね、リッキー!」


キッチンへ走るビッキーに、ナイジェルが「全員分作れよ」と消えそうな声を漏らす。

普段と変わらない光景。

この瞬間までは…そうだった。




コンコン!



「ん?客か?」

玄関から扉を叩く音が聞こえた。


コンコン!!


扉の向こうの人間が早く開けてくれと何度もドアを叩いている。

こんな平日の夜に珍しい。

どうやらせっかちな客のようだな。


「私、出るわよ」

そこで玄関に一番近い位置にいたサラが、扉の方へと歩き出す。

廊下に響く彼女の足音。

何も疑う事なく、不用心に扉を開く。


「はい、どちら様で……」


瞼を上げた瞬間、






サラの瞳孔が突然大きく開いた。






「キャァッ!!!」


「「…ッ!?」」


玄関から聞こえた悲鳴。

和やかだったメインルームが一瞬にして緊張に包まれた。


「サラッ!?」


やっていた全ての作業を停止し、慌ててその場所へ走る男4人。


「サラ、どうしっ…」


玄関にはひとりの男が立っていた。

彼女がこちら側へ助けを求めるように走ってきて、ナイジェルの腕に掴まる。

どうやら外傷はないみたいだが…

その男の顔に全員が一瞬呼吸を忘れてしまった。


思い出す、あの日の光景。


鳴り止まない銃声に、冷たく恐ろしい狂気に満ち溢れた目。


あれはサラのあの一言から始まった。













『見合いするの、私』












ロビン・ジャックマン。

その男だった。


以前親同士の決断で行われた、セレブ家系ヒル一族とジャックマン一族のお見合い。

その時のサラの相手だ。

一見、金髪で気品溢れるヤサ男だが

裏の顔はサラの実家の会社を乗っ取り、彼女を始末しようと企てていた極悪人。


あの事件以降、警察に逮捕され刑務所に入れられていたはずなのに…


俯いていたロビンの瞳がこちらに向けられ、全員が一歩下がる。


怖い。


言葉には出さないが、あのいつも余裕面のサラが怯えて手が震えている。


「隠れてろ」

ナイジェルは彼女を背中に隠し、ロビンをギロリと睨みつけた。


「復讐にでも来たのか、テメェ」

「…………。」


彼は立ち尽くしたまま何も答えない。

このふたりは当時、壮絶な銃撃戦を繰り広げており、お互いの恐ろしさを知っている。

睨み合ったまま数秒が経過し、ついにロビンがその口を開いた。








「臭い」









「…は?」



グッと力を入れ、

ブワッ!と男は宝塚のように大きく両手を開いた。


「貧乏臭い!!君のそのオーラ…貧乏臭すぎるよ!!!!」

「「………。」」


これにはナイジェルだけではなく、何事かと全員が目をパチクリと瞬き。

ロビンの背景には赤い薔薇が散りばめられ、キラキラと星屑が舞っている。




「ああああ〜ん!ダーリン☆」

「え…お前ッ…わっ!!」

次の瞬間、ナイジェルが突然襲ってきたトドに押し潰された。

後ろに隠れていたサラは咄嗟に彼から離れたらしく、次はジムの後ろに隠れている。


「おもっ……重いです……すんません、降りて…」

「イヤーン!相変わらずこのだるい雰囲気がたまんな〜い!」


明らかに彼より質量がありそうな体で押し潰して締め上げる。

この、おばさんパーマで中年太りしたアゲアゲテンションのエプロン女性。

彼女はロビンの母親だ。

息子とグルになり同じようにサラの会社を乗っ取ろうとしていた、もうひとりの犯人。

以前は金に目がくらみ、理性さえ失っていた彼女だったが…

笑顔でナイジェルをひねり潰している様子から、今はそのような悪意は感じられない。

ロビンの言葉に母親の登場にと訳のわからない事態が続き、4人は状況が掴めないままただ玄関に黙って突っ立っている。


「あの…何しにいらっしゃったんですか?」

ようやくジムが話しかけると、その質問に歯をキラリと光らせてロビンがこちらを見た。


「あぁ、刑務所とかいう小汚いホテルに泊めさせられて約一年…」

リッキー「ホテルじゃないですよ」

「私のこの美貌と、知恵と権力…そして財産のおかげで、彼らはようやく我々を解放してくれたんだ!」

ジム「要するに…保釈金を払ったんですね」

「しかしこの世界に戻ってきたのは良いが、会社と自宅の前にイエローテープが張り巡らされ、我々は新たなる旅を命じられた」

ボビー「差し押さえられたんだ」

「そうして友を渡り歩き、流れ着いた場所がここだったのさ☆」

ナイジェル「つまり無一文になり、知人にも見放され、最後に辿り着いた場所がここだったって事か…」


「ちょっと待ってください!」


状況は理解出来た。

理解は出来たが、もちろん納得は出来ない。

リッキーが思わず身を乗り出す。


「そちらが大変な状況にある事はわかりました。
わかりましたが、貴方達が以前サラに何をしたかわかってるんですか!?
サラだけじゃありません、俺達全員が命の危機に晒されたんですよ!

そんな人を『じゃぁ、仕方ないですね』と簡単に受け入れるわけないでしょ!」


普段は温厚な彼が、珍しく口調を荒くしている。

仲間を守ろうとする気持ちが伝わったのか、後ろのジムの表情が緩んでいくのがわかった。


が…


「まぁそう焦るな。あそうだ。さっきから来る途中、子猫が付いて来て困っているのだが…どうしようか」

リッキー「どうぞ、お入りください」

ジム「オイーッ!お前の意志の弱さ!!」


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