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……………
「はい。それでは条件をお願いします」
眼鏡をかけた七三分けの細身の中年男性が問いかけた。
ここはウィンディラン本部から少し離れたとある不動産会社。
引っ越しを考えた大人達や、これから新たな土地で生活を始める新卒の学生等が、住む家を探して足を運ぶ場所だ。
パソコンを見ている職員。
そのカウンターの前。
ロビン親子が丸椅子に座り、後ろから6人が立って見ているという状況だ。
話がまとまったのは昨日の夜。
図々しく「新しい家が見つかるまでここに置いて欲しい」と押し入ってきたロビン親子に猛反対の嵐が巻き起こった。
なんとか自分達で新しい仕事を探すという事で納得をしてはもらったが、肝心の住む家がないと職も探せない。
本部に住ませるなんて言語道断だ。無理に決まっている。
という訳で働きながら住める安いアパートを探す為、全員はこの場所を訪ねていた。
「うむ…」
職員に目を向けられ、顎に手を当てて考えている様子のロビン。
条件なんて決まっている。
何より「家賃が安い」だ。
極端に言えば最低限「寝る場所」さえあればどこでも良い。
コイツらは金を1銭も持っていないんだ。
贅沢等言える資格なんて…
「5千坪。最低5千坪は欲しいな」
ガシッ!
ジムはその場でロビンの背中を後ろから掴み、離れた場所まで強引に引きずり出した。
「5千坪ォ!?ゴルフ場かよ!5千坪の家なんてもう桁が違いすぎて一般人にはよくわかんねーよ!」
何やらゴニョゴニョとふたりで話している。
ゴニョゴニョと言っても怒っているジムの事。声は職員まで丸聞こえだ。
「あの…」
「違うんです!今の5千坪は……5千壺って事で…タコを5千匹飼う予定なんです!」
リッキー「貴方の言い訳の方が無理ありますよ」
どう検索して良いのかわからなくて、パソコンの前で大してズレていない眼鏡を意味なく上げる職員。
再び丸椅子にロビンを座らせ、ジムはゴホンと咳払いをした。
「きちんと空気を読め」と親子へ圧力をかけたいのだろう。
おばん「そうだわ!執事!格好良い執事に囲まれる家に住みたいわ!」
ガシッ!!!
ジムはその場でロビン母のパーマを後ろから掴み、離れた場所まで強引に引きずり出した。
「何大ボケかましてんだ!!不動産屋に執事の手配をすんな!」
もはや声は壁を跳ね返って、やまびこのようになっている。
「あの…」
「あっ、違うんです!えっと…羊です!格好良い羊に囲まれる家に住みたいそうです!」
ビッキー「…どんな羊?」
職員は過去にない客のタイプにどうしようもない状況。
「牧場」と打ち込まれた文字の隣で縦線がピコピコ点滅を続けている。
「そうだ!」
そこでロビンの頭上に光った電球が現れた。
「そうだ牧場だよ!趣味に乗馬を楽しむ私!なんと絵になる光景だ☆」
またコイツ余計な事を…!
「そうよ!」
そこで母親の頭上にもピコーン!と光った電球が現れ…
「玄関には銅像を置きましょう☆」
ナイジェル「置きましょう☆じゃねーよ!どこにそんな金があんだ?」
「じゃぁ、ナイジェルさんの銅像でいいわ!」
ジム「じゃぁって何だ!?なんでお前の家の玄関にナイジェルの銅像が置いてあるんだよ」
ナイジェル「なら仕方ないか…」
ビッキー「勝手に納得しないでよ!どっちにしたって置けないから!」
ボビー「あ!(ピコーン!)僕ナイスアイデア閃いた!」
ジム「ったく、どいつもこいつも電球つけんな!眩しいだろ!」
ボビー「玄関にナイジェル君が立っていればいいんだよ!お金もかからないし、外の人間にも我々の存在をアピール出来る、一石二鳥だ!」
リッキー「なんですかそれ!もう外から見れば、ほとんどナイジェルの家ですよ!」
狭い空間に言葉と言葉が飛び交い、誰が何を話しているのかわからなくなる。
「あぁ、もう!皆落ち着きなさい!」
今日は珍しく大人しくしていたサラが声を出して止めに入るがなかなか静まらない。
「…あぁっ!ありますよ!」
その言葉で辺りが一瞬にして静まり返った。
声の主は不動産屋の職員。
彼は眼鏡を大袈裟に何度も指で上げながら、パソコンを食いつくように見ていた。
「え?あったって…」
「だからお二方の条件に合ったものが検索をしたらヒットしたんです!」
「「……嘘ぉ!?」」
全員がカウンターから乗り出して「それはどこですか!?」と激しく問いかけてくる。
その条件を満たした場所は…
「ポケットランド動物園です」
「…は?」
ポケットランド動物園とは、隣町にある子どもから大人まで遊べる…
この近辺に住んでいる人間なら誰でも知っている動物園だ。
しかし、この場で動物園とはどういう事だ?
まさか動物園に住めという事か?
「ここなら、タコ・羊・馬・象…全て暮らしていますよ」
「ん?ちょっと待ってください。俺達はアパートとかを探しているのであって、別に土日の行き先を探しているわけじゃ…」
「何をおっしゃるんですか?アパートで働いてもお金は貰えませんよ」
「…お金?」
何かに気がついたのか、突然ジムは走り出し自動ドアを無理やり手でこじ開けて外へ飛び出した。
まさか……ここって…
『みんなの職場案内所
〜職をお探しの方はどうぞお気軽に〜』
「………。」
ハローワークだった。
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