……………

「結局、最後の作戦も失敗に終わったか」

生き物達の捕獲が終了して、いつものスッキリした状態に戻ったメインルーム。

5人は輪になって正座をしていた。

それぞれの頭にはサラにつけられたであろう、大きなたんこぶが出来ている。


「サラ…怖がるどころかその辺りにいるヘビでもカエルでも、レーザービームで投げ返してきましたもんね。イチローもビックリですよ。まぁ、だから全部捕まえられたんですけど」

リッキーの頭には、こぶの上にもう一匹緑色の小さなカエルが乗っている。


「もう…無理だよ。あの人に怖いものなんてないんだって」

「僕もビッキーちゃんの言う通りだと思うよ」


はぁ…と5人分の深いため息が、室内をますますどんよりとさせた。


「もう…誰かアイツ襲ってこいよ。結局、女が一番怖いと思うのはこういう事だろ?」

「わ!グレン最低!」

「ジムな」


猛抗議するビッキーにジムが「冗談に決まってんだろ」と手を横に振る。


「さすがの俺達だってそこまではしないから。それこそ、たんこぶなんかじゃ済まなくな………あれ?」

1234……ん?人数が足りない?

さっきまで5人いたはずなのに。


「ボビー?隣に座ってたナイジェルは?」

「あぁ…なんか『ちょっとコンビニ行ってくる』って凄いスピードでどこかに走って行ったよ」


「「……………。」」


「「ああああああ!!!!」」


状況がわかっていないボビーだけがメインルームに取り残され、他の3人が慌てて走り出した。


ジム「マズいマズい!ナイジェルの野郎何考えてんだ!」

ビッキー「早くサラの部屋に行かないと!」

リッキー「サラァァッ(泣)」





「キャァ――――ッ!!」


階段を駆け上がった所で、廊下の向こう側から女性の叫ぶ声が聞こえた。

間違いない…サラだ。


「本当にヤバい!ナイジェル、やめろ!」


「ヤダッ!来ないで!助けて!誰か助けて!」


必死に助けを求める彼女の叫び声。

間に合え…!

なんとか間に合って…


「サラッ!」

「イヤァッ!」


扉を開けた瞬間、それと同時に部屋から出てきたサラ。

彼女は目の前にいたビッキーに抱きつき、その場でピーピー泣き出した。


「大丈夫?変な事されてない!?」

「アイツ…勝手に部屋に入ってきて!凄いスピードで追いかけてきたのよ!」


子どもに戻ったように泣いているが、姿を見る限り目立った外傷はない。

なんとか間に合ったようだ。


「とりあえず、何もされてないみたいで良かった…」


部屋の中を見回すジム。


「で…ナイジェルは?」

「ナイジェル?何?来てないけど」


…え?来てない?

ジムはぽかんと口を開けた。

予想ではアイツがサラの部屋に無理やり押し入ってそれで…

あれ?状況が上手く掴めない。


「来て…ないのか?ここに」

「えぇ」

「じゃぁお前は何に怯えてたんだよ?」

「決まってるでしょ!奴よ!」


サラが指さしたのは、玄関から少し奥にある棚のすぐ横。

そこには彼女の言う「奴」がいた。







「ゴキブリ…ですか?」

「当たり前でしょ!もう、本当に怖かったんだから!」



サラが怖がって悲鳴を上げていたのは3センチ程のゴキブリだった。

白い壁にくっついているせいか、やたら大きな存在感。

触覚を動かしながら、こちらをじっと見ている気がする。


「ジム!早く退治して!」

「ふざけんな!俺だってゴキブリは嫌いだよ!」

「じゃぁ、リッキーお願い!」

「え…あ、殺虫剤は!?殺虫剤はどこですか!?」


スパンッ!


「あっ…」


部屋に響いた音。

全員が声を漏らしたと同時に、ゴキブリはへなへなと床へ落ちてしまった。


「たかだかゴキブリ一匹くらいでギャーギャー騒ぐな」


そこには先程まで姿を消していたナイジェルの姿が。

彼の手には自分の右足に履いていたであろうスリッパが握られていた。


「ナイジェル!お前どこ行ってたんだ!」

「どこでもいーだろ」


スリッパを床に落とし、面倒臭そうに履き直す。


「ナイジェル…助かったわ。本当にありがとう」

「…あぁ」

「それにしてもサラ。お前ってゴキブリが怖いのか?」


ジム、ビッキー、リッキーも部屋の中へ入ってくる。

彼の質問に少し恥ずかしくなったのか、サラは視線を壁に移しながらもごもごと口を動かした。


「だって…気持ち悪いじゃない。なんか…形が…」

「サラ…前にベトナムでタガメ食べてましたよね。ほとんど一緒じゃないですか」


冷静な突っ込みをしたリッキーの声も、今の彼女には聞こえていない。

こうやって見ると、コイツもビッキーと変わらない女の子なんだな。

ジムはなんとなくそう感じて、少しだけ口元が緩んだ。(タガメ平然と食ってる時点で、あまり認めたくないが)



「おぉ!サラちゃんをピーピー泣かして、復讐する作戦がついに成功したんだね!!」


「……は?」


ようやく階段を上がってきたのは、ひとりメインルームに置いていかれたボビーだ。

KYで塗り固まった彼は、姿を現すなり大声でそう叫んで周りを震撼させた。

それぞれの体温が冷たく下がっていく。



「…何それ?」

「ち…違うんだ、サラ!ゴキブリは全くの想定外で!」

「じゃぁ、他の出来事は想定外じゃないって事?」

「…ッ」

「何かおかしいと思ってたのよ。いきなり遊園地に行こうとか、ボビーがUFOじゃない別の料理を作ったり、メインルームでカエル放して遊んでたり…
全部私を怖がらせようと思って、わざと仕組んだ事なの?」

「いや…それはその…」

代表して必死に説明していたジムの額から尋常じゃない量の汗が流れている。







「ジム…。ちょっと裏に来なさい」

「………!」

先程の可愛らしく照れていた彼女は幻だったのか。

普段通りの無表情顔に戻ったサラは、ジムの服の襟部分を無理やり掴んで部屋から強引に引きずり出した。

「え!?待て待て!この計画を立てたのは俺だけじゃなくて!ちょっ…お前ら見てないで助けろ!今まで一緒に戦ってきた同志だろ!

オイ!…オ…痛い痛い!息がッ…息が出来なッ…」


あっという間にその場から消えたジムの姿を、手も足も出せずに4人はただただ見ている事しか出来なかった。





「わ…私、知らな〜い…」

「お…おっと!ピアノのレッスンの時間だ!行かなくちゃー」


逃げるように廊下を去るビッキーとボビー。

残されたのはリッキーとナイジェルのみ。


「ナイジェル…」

「なんだ?」

「ところで、貴方なんで最初からこの部屋にいたんですか?」

「は?決まってんだろ。ジムに頼まれてここで待機してたんだよ」







「ちょっと裏まで来てください」

「は、お前も!?なんでだよ、俺はジムが言った通りに…やめろやめろ!襟を引っ張るな! 息がッ…息が出来なッ… 」


ナイジェルはジム同様強引に部屋から引きずり出され、魔界へと連れて行かれたのであった。


fin


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