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……………
彼の部屋は、男にしては案外片付いた清潔感のある部屋。
所々に動物の写真が飾ってあったりぬいぐるみが置いてあったり、少々女の子っぽいけど。
前に何度か来た事があるが、相変わらず綺麗にしてるな…私の部屋より全然綺麗だ。
そう考えながら、案内されたソファーに座った。
「はい、どうぞ」
猫のシルエットが描かれたティーカップに、良い香りの紅茶が注がれている。
リッキーに紅茶なんて…なんだか絵になる。
「この紅茶、母さんが毎年送ってくれるんですよ。ウチはサラのお家みたいにお金持ちじゃないから、あんまり高い物は送らなくていいって言ってるんですけど…。
でもとっても良い香りで、飲むと疲れが取れるんですよ」
リッキーのお母さんか。
見た事ないけど、なんとなく彼と同じ雰囲気の人だと思う。
いつもニコニコしてて、優しくて、ちょっと天然。
だから息子もこんな真っ直ぐな子に育ったんだって…
隣に座った顔を見ると、ちょっとだけ笑みが零れた。
「なんですか?」
「なんでもない」
そっとティーに口を付ける。
「あ、美味しい」
何も考えずに自然とその言葉が出た。
フルーツティーだろうか。
りんごのような酸味と甘みの香りが鼻を通って爽やかに広がる。
リッキーがいつもみたいに笑ってくれて、部屋の雰囲気もあってか、なんだかとても落ち着く。
「信じてますよ」
「……っ」
彼の口からその言葉が出て
返す言葉が見つからないのか、彼女は黙って目を彼の視線に合わせた。
「幽霊がいるって考えるとやっぱり怖いけど(笑)でもサラの言う事は、どんな事でも信じてあげたいです」
「何それ。おばさんを煽てても何もあげないわよ」
「いや、そんなんじゃなくて…」
サラは再び紅茶を啜る。
「…………。」
隣の横顔を見て、
彼女の手に自分の手を少し近づけたが、
数秒経った所で元の位置に戻した。
「はぁ…」
「どうしたの?ため息なんかついて」
「何でもないです。あ、飲み終わったんですね。おかわりします?」
「…………。」
「…サラ?」
彼女が自分の顔を何故かじっと見ている。
しかもこんなにも至近距離で。
「………ッ…///」
咄嗟にリッキーの頬が赤く染まった。
ソファーの端を掴んでいる自分の手の力が無意識に強くなる。
やっと…俺の気持ちに気づいてくれたのか?
何も考える余裕がなくて、でも目だけは逸らしたくなくて。
ゆっくりと顔を近づける。
「リッキー…」
「なに?」
「なにあれ?」
「………はい?」
・
・
・
「イヤァァ――――――ッ!!!」
ふとんを干していたジム、近所のおばさんの家から帰ってきたナイジェルの耳にも、もちろんその悲鳴は聞こえた。
「な、なんだ!?」
「リッキーの部屋から聞こえたぞ!走れ、ナイジェル!」
サラの声が聞こえた部屋へと走るふたり。
先程同様、階段を駆け上がり、
そして目に映った光景が…
「オイッ!どうし…」
ゴキゴキゴキ!
「痛いっ!!痛い痛い痛い!!!」
リッキーの背中に手を回して背骨を折っているサラの姿。
「一度ならまだしも二度までも!死ねぇぇぇえっ!!煤v
「アアアアアッ!!!違います違います!!」
ナイジェルがリッキーの首を絞め始めるのと同時に、サラは玄関にいたジムの元へ駆け寄った。
「おい、サラどうしたんだよ?今日はキャラ崩壊しまくりだな」
「だって…あれ…」
彼女は涙目である場所を指さす。
この部屋の窓際に並べてある何体ものぬいぐるみ。
ネコにウサギに、カメにクジラ…
動物さんから、誰でも一度は見た事のある緑の怪獣や赤いモジャモジャまで。
女の子の好きそうな可愛らしいぬいぐるみが置いてあるが
その端っこに明らかに一体だけ異彩を放つ…怪しいぬいぐるみが飾られていた。
「なんだこの気持ち悪いぬいぐるみは…」
ジムが許可なくリッキーの部屋へ上がり込み、歩み寄ってそれを手に取ってみる。
太ったオジサンのような外見。
目はモザイクで隠されていて、顔の形は…猫だ。
「おい…この特徴って…」
猫耳が付いたオッサンの妖精。
「っ!モザイクが付いてる!」
サラは恐怖でそのぬいぐるみから咄嗟的に離れる。
「お前が言ってた妖精ってこれか。やっぱ全国の妖精さんに土下座してこい、お前」
ジムはぬいぐるみを回しながら観察した後、リッキーに問いかけた。
「リッキー、これ何だ?」
「知らないんですか?それは今、若者の間で流行ってるキャラクター『チュリッキャ』ですよ。太ったオジサンなのに、形が猫って所が斬新で可愛いでしょ?」
「え…可愛いのか?太ったオッサンに猫耳が付いたら『可愛い』になるのか?最近の若者ヤバいな」
何がヤバいのかよくわからないが、確かにサラが見た幽霊はこの「チュリッキャ」で間違いなさそうだ。
しかし、気になる事がひとつ。
「サラが見た時は、このぬいぐるみにモザイクは付いてなかったのか?」
「え…えぇ」
小さく首を縦に振る彼女。
試しにモザイクの部分を引っ張ってみるが全く取れない。
しっかり糸で縫い付けられている。
「取れないな」
「あ!破らないでくださいよ!チュリッキャはモザイクがあってこそのチュリッキャなんですから!」
どうやら元々モザイクがあるキャラクターらしく、リッキーが縫い付けたわけでもなさそうだ。
では何故、サラが見た時はモザイクが外れていたのだろうか。
やはり彼女の気のせいなのか。
「ほら、ちゃんとよく見てみろって。本当にモザイクは付いてなかったのか?」
「だから付いてなかったって言ってるでしょ」
ジムがチュリッキャを彼女の方に向け、サラも目を細めてもう一度ぬいぐるみを確認する。
そうだ。
私が廊下を歩いていて、その先にコイツが座っていた。
その目を見た途端、突然気を失いリッキーの部屋の前で倒れてしまっていたのだ。
確かに…あの時はモザイクなんて…
グワッ!
その瞬間にジムが握っていたチュリッキャのモザイクが透け、中の瞳がコチラを見つめてきた!
「……………ッ…!!」
「イヤァァァアッ!!!」
ぐわしっ!
「…え?」
ガシャァァァァンッ!!!Σ
突然こちらへ走ってきたサラの拳がジムの下顎を直撃。
物凄い音と共に天井を突き破り、彼はぬいぐるみを握ったまま空の彼方へ消えて行く…
「あああっ!ジム―――ッ!!」
「あああっ!チュリッキャ――!!」
ナイジェルとリッキーの叫び声が外まで響き渡った。
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