……………


ザブン!


やはり男4人でひとつの浴槽に浸かるとかなり窮屈。

座った瞬間に中のお湯が半分くらい一気に外へ押し出された。


「なんで一日に2回も風呂に入らねーといけねんだ…」

「いいじゃないですか♪久しぶりですね!こうやって男同士でお風呂に入るのって!」

「リッキー、お前がそういう事言うと違和感あるな。男なのか?本当に男なのか、お前」

「何を言う!僕は男だぁッ!」

「お前じゃねーよ」

一々立ち上がって男を立証するボビーだが、慣れている3人は特に動揺する事もなく話を続ける。


「…で?お前らは信じてると。あの変なぬいぐるみがモザイクを外して襲ってくるって話を」

「俺だって最初は信じてなかったさ!でも信じなかったら、あの殴られた痛みが無駄になるって事だし」

「俺は…その……普通に怖いです…ごめんなさい…」


ナイジェルの質問に、小さくなってお湯に沈んでゆくジムとリッキー。

呆れているのか、彼は面倒そうに何度か顔をお湯で流した。

そこから4人は湯船から出て、横に並んで頭を洗いだす。


「大体、大の男が幽霊ごときにビビってんじゃねーよ。幽霊って実態がねぇから別に刺し殺されたりしないしよ」

「なんで『刺し殺される』とか怖い例えを使うの?余計ビビるだろ」

「んなビビッてっと愛しのビッキーちゃんから嫌われちゃうぞ?今現在でさえ俺と抱き合ってる瞬間を見て、ちょっと勘違いしてるみてーだしな」

ボビー「何ぃぃいっ!?ジム君!ナイジェル君に抱かれていい男は僕だけなんだぞ!ふざけるな!」

「俺だって抱き締めたくて抱き締めたんじゃない!体が勝手に…」

「読者が勘違いする言い方はやめろ。俺は男は抱かん」


頭を洗い終わった4人は、次は縦一列になりお互いの背中を洗い合う。


「まぁまぁ、ケンカはやめましょうよ。せっかく皆で楽しくお風呂に入ってるのに」

「あのな…元はと言えばお前があんな気味悪いぬいぐるみなんて持ってるからこんな事になったし、俺も殴られたんだぞ?」

「そんな事言ったって、チュリッキャ流行ってるし可愛かったんですから!俺のせいみたいな言い方はやめてください」

「じゃ、やっぱサラのせいだな!アイツが勝手に幽霊見てギャーギャー騒いでるのが悪い!」

「サラのせいにもしないでください!それは……その…うん…書いてる音羽さんが悪い!謝れ、コラ!」

「ジム君、リッキー君!僕を求めてケンカはやめてくっ…」


ザブン!!!


3人はお湯が少なくなった湯船にボビーを投げ入れた。

その瞬間、激しい波飛沫が発生し、お湯がボビーの鼻血で真っ赤になる。


ジム「何、コイツ。風呂入ってからウザい事しか喋ってないんだけど」

リッキー「出ましょうか。大分温まりましたし」

ナイジェル「よし。リッキー、蓋取れ。閉めるぞ」


気絶した変態がうつ伏せで浮かんだまま、風呂の蓋を閉める。

完全に閉めきって大きく息を吐いた男達は腰に巻いているタオルを整えた。


「さ、出ましょうか」

「そーだな」


4人が揃って踵を返す。





「……ん?」


固まる4人。


くるりともう一度湯船に体を向ける。


蓋を開けると、まだ死体のようなボビーが浮いている。



うん、と頷いてもう一度踵を返す4人。





「…ん?」


首を捻る。



ジム「何故だ…?」





「何故…『4人』と表記される?」




リッキー

ジム

ナイジェル



ボビーは風呂の底に沈んでいる。


何回数えても、今立っているのは3人だ。




「…………っ…!」


すると先程まで散々霊を馬鹿にしていたナイジェルが、何かに気がついたのかピクリと体を一瞬震わせた。




「オイ……なんだ?あれ…」


彼が指さしたのは、真横にある縦に長い鏡。

その鏡にはナイジェル、ジム、リッキーの順にそれぞれ横向きの姿が映し出され…



…あれ?



人数が4人いる。



リッキーの向こう側にもうひとり誰かいる。



温まったはずの体がどんどん冷めてゆく。



そこに立っているのは…




今日の朝、サラによってジムと共に天空へ投げ飛ばされたはずの



モザイクの外れた大きな血走った目でギロリとこちらを見ているチュリ…






「「ウワァァァァァッ!!!!!!!!!」」


男3人は何かのスイッチが入ったかのように、全力で走って風呂場を飛び出した。


ナイジェル「オイ!なんかいたぞ!今なんかいたぞ!!」

ジム「お前は信じてないんじゃなかったのか!?めちゃくちゃビビってんじゃねぇか!」

リッキー「チュリッキャでした!今のマジでチュリッキャでしたよ!」


濡れた体のまま目的地などなく、とにかく1cmでも風呂場から離れようと廊下を走り続ける3人。

彼らの前には右と左に分かれた通路。


ジム「どっち行く!?どっち行くか!?」

ナイジェル「よし、それじゃ…」



ぐわんっ!


前の壁に突然、恐ろしい生首だけのチュリッキャが浮かび上がった。



「「ああああああっ!!!」」


驚いた衝動でジムが右、リッキーとナイジェルが左に曲がる。


ジム「おい…こっから……え!?誰もいない!嫌だ!ひとりは嫌だ!!」



ナイジェル「リッキー!お前これからどうする!?」

リッキー「どうするって言われても、走るしかないでしょ!」



するとリッキー、ナイジェル組の走る先に

またもやチュリッキャのぬいぐるみが!



「うっわ!また出やがった!リッキー!戻…」


ギッ!

チュリッキャの瞳から強い緑色の光が放たれた。


「えっ………あれ…」


バタリッ!

目が合ったのか、リッキーはその場で眠るように倒れ込んだ。


「ッ!?オイ!リッキー!しっかりしろ!……クソッ!」


ナイジェルは倒れた彼を残し、再び明かりのついていない暗い廊下を走り始める。

こうなったらほとぼりが冷めるまで、自分の部屋に隠れるしかない!

度々出てくるぬいぐるみと目を合わせないようにして、自分の部屋へと走る。

しかし



ガッ!


「クッソ、鍵までかかってやがる、どーなってんだ!」


自室まで辿り着いたは良いものの、何者かによって鍵がかけられていて扉が開かない。

恐らくあの「チュリッキャ」とかいう奴の仕業…!



「クッソ!開け、コラァ!!」


ガチャン!!

もはや咄嗟の判断能力が機能しない。

無理やりドアを足で蹴り壊し、真っ暗の部屋の中を走り抜けダイブしてベッドへ潜り込む。











静かに過ぎる時間。

その緊張の体勢のまま、2分程が経過した。


どうやらもう追っては来なさそうだな…



「何してるの…?」



っ…!Σ

こ、声が聞こえる!?

幻聴か!?

いや、でも確かに聞こえた!

やはり奴は追いかけてきやがった!

ヤバい、どうする!?もう逃げ場はないぞ…!



「何してるの…?」


心臓がバクバク鳴っている。

落ち着け!

大丈夫だ…!

大丈夫だ、大丈夫だ!!


「何してんの?」


答えるな…!

この質問に答えたら、きっとリッキーみたいに魂を吸い取られ…





「ナイジェル。何してんのって訊いてんでしょ…」

「ん…?」



その声はよく聞くと、すぐ真横から聞こえていた。


目がだんだんと暗闇に慣れてきて、

声の主が判明した途端、温まっていたはずのナイジェルの体は凍ってしまう程冷たくなってしまった。




「サラ…ッ…さん……あのですね…」




部屋を間違えた…。


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