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……………
数日後のとある昼間。
美空はボーっと空を眺めながら、いつもの街中を歩いていた。
締め切りまであと1週間を切ったというのに、未だに良い詩が閃かない。
これはweather life結成以来の大ピンチだ。
さすがにここまで追い込まれると、彼も真面目に歌詞を考える気にはなったらしいが
いざ考えるとなると頭の中が真っ白になる。
朝に事務所で会った他の4人も僕と同じような状態だったし。
ミヤ君なんか眼鏡割れてたな…。追い込まれすぎて眼鏡にまで支障が出たのか…
あ。あれは昨日僕が踏んで割ったんだった。忘れてた。
「あ〜あ〜。何か良いテーマ落ちてないかなぁ!なんかありゃ、そこからは簡単なのにさぁ」
ブツブツと大きな独り言を口から漏らしながら、野菜屋の前を通り過ぎる。
辺りを見回して題材になりそうなものを探してみるが…
通り過ぎる野良犬…ないな。
可愛いお菓子屋さん…女が書く歌じゃあるまいし。
道端でテント張って寝てるオッサン………ヒットしたらホームレスが増えそうでイヤだ。
「…ん?」
ふと首が自然と右に回る。
ビルとビルの間。奥の細道の向こう。
背中を向けた女性がしゃがんで何かを探している。
あの後ろ姿…どこかで…
「あ」
思い出した。
先日ナンパをしまくってた時、間違って声をかけた女性だ。
あの地味な服装と、頭に付いている蝶の髪飾りですぐにわかった。
落とし物でもしたのだろうか?
地面を這って必死に何かを探している。
「…………。」
まぁ、僕には関係ないか。
何事もなかったように、特に気にも留めず歩き出した。
そうだ。今僕に他人に構っている時間はない。
新曲の締め切りまであと1週間を切っているんだ。
これで完成しなかったら、後からとんでもない事になるに違いない。
「テーマなぁ…テーマテーマ…」
「そうだ…なぁ…何か…ないか…ぁ…」
「……………。」
わざとらしく開いていた口が、時間をかけ徐々に閉じていく。
・
・
・
「何してんの?」
建物と建物の間にある、人通りのない暗くて細い抜け道。
美空はだるそうに瞳だけを下に向けて問いかけた。
なんだかんだで、どうやらその女性が気になって戻ってきたらしい。
顔はなんとも「なんで僕がこんな事を…」と言いたげだが。
しかし…
「…………。」
彼女は黙ったまま、地面を探し続けている。
「何してんのって訊いてんでしょ?」
「…………。」
なんだ、コイツ。
人が親切に訊いてやってんのに無視?
感じ悪いな。
「ねぇ、聞いてんの?アンタ!」
イラッときた美空は強引に彼女の肩を掴ん…
「……ッ!?」
肩を掴まれた瞬間、彼女はビクンッと体を震わせ
驚いたのか、地面にペタリとお尻をつけた。
え…おかしいな。
僕の声に気づかなかったのか?
この距離で。
「…何してんの?」
改めてもう一度訊いてみるが、彼女はこちらを見上げたまま何も答えない。
「…ねぇ、聞いてる……っ…?」
おかしい。
彼女、何かがおかしい。
「もしかして…聞こえないの?」
何も答えない女性。
試しにボツになった歌詞の書かれた紙をポケットから取り出し、裏面にボールペンで書いてみる。
『聞こえないの?』
その文字を読んで、初めて彼女はコクリと一度頷いた。
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