……………

たまたま出会った耳の聞こえない女性の為に、定期券を探し始めて1時間が経過。

辺りを一通り探し、彼女の来た道を一緒に戻ってみたが、赤い定期券なんて見つからない。


「ない…ない……っていうか疲れた…なんで僕がこんな事を…」


グチグチと独り言の文句が絶えない。

足より口の方がよく動いているみたいだ。

だるそうに背中を丸めている彼の元へ彼女が走ってきた。


「あり…ましたか?」

「ないよ」

表現だけでわかるよう首を横に振ると、彼女は残念そうにしゅんと小さくなる。


「すみ…ません…」

「本当だよ、全く」


わざと文句を言ってやる。どうせ聞こえていないんだ。

不機嫌に眉間にシワを寄せるが、なんだかそれも疲れてきた。

とりあえず、その定期券が見つからないと話が終わらない。


「はぁ。とりあえず一旦、交番に行こ。もしかしたら落とし物として届けられてるかも」

「…?」

再びわからないと首を傾げる。

「あーもっ!いーから付いてきて!」

紙に書く作業がいい加減面倒になり、美空は女性の腕を無理やり引っ張り、街の中心部にある交番へ歩き出した。













「あぁ、届いてるわよ。赤い定期券ね。ほら」




…あった。


灯台下暗しとはこういう事を言うのか。


眉をヒクヒク動かす美空に気づかず、中年のふくよかな女性警官から例の物を受け取った。

心底ホッとしている表情。

ったく、人が休みを潰してまでこんなに探してやったというのに。


「良かったわね。これがないと帰れない所だったんでしょ?」

彼女は少しだけ笑って丁寧にお辞儀をするが、口での返事は返さない。

当然だ。耳が聞こえないのだから。



「うん。良かったね。じゃ、僕はこれで…」


やっとこれで解放される。

彼がとっととこんな場所出てやろうと背を向けた途端、その警官に突然肩を掴まれた。


「わっ!何すんの!?」

「外はもうこんなに暗いのよ。彼女を駅まで送ってあげなさい」

「はぁっ?嫌だよ!なんで僕がそんな事しなきゃなんないの!?」

「それが男の仕事ってやつでしょ?さ!ガールフレンドも待ってるわよ!」

「ちょ…誰がガールフレンド!?待ってよ、ねぇってば!」


- 279 -

*PREV  NEXT#


ページ: