……………


『まもなく19時30分発の列車が出発します。お急ぎの方は…』



駅員のアナウンスと、列車が行き来する騒音が耳に入ってくる。

結局、彼女を駅まで送ってあげる羽目になったのだ。


あのババァ警官…!

今度会ったら警察手帳奪って、川へ投げ捨ててやる!


「今日は…ありがとう……ございました…。助かり…ました」


別れのホームまで歩くと、彼女はこちらへ振り返り頭を下げた。


「あぁ…そう…」

こっちは足がクタクタでそれ所じゃないっての。

スッゲー疲れた。疲れたし、眠いし、腹減った。

あぁ…せっかくの貴重な休日が…


「最後に……お名前…を…よろしいですか?」


目を少しだけ逸らし、彼女が訊いてきた。


「美空……あぁそっか…」

紙に自分の名前を書いてみせる。


『美空 七音。アンタは?』

ついでといった感じで最後の文を付け足した。

彼女は僕の手から紙とボールペンを取り、スラスラと文字を書き出す。



『エマ・ガーネットです』


エマ…。

ふぅん。名前だけは可愛いじゃん。


エマという女性は列車に乗り、控えめに手を振って美空に別れを告げた。


「ふぅ…やっと終わった。疲れたぁ…」


疲れ果て、美空はホームのベンチに力なく座り込む。

今日一日だけで3日分の体力を消耗した気分だ。


それにしても耳が聞こえないってだけで、コミュニケーションを取る事がこんなに大変だなんて思ってもいなかったな。



「難聴の女性か…」


自然にぽつりとその言葉が口から漏れた。

列車の音や人の話す声を聞きながら、美空は肘を膝に乗せ、ひとり何かを考えている。

そしておもむろにポケットから携帯電話を取り出し、どこかへ電話をかけ始めた。






「もしもし?…ミヤ君?あのさ、ちょっと良い詩を思いついたんだけど」


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