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……………

その夜。

メンバーが自宅へ帰った後、美空はひとりこっそりレッスンルームへ入っていた。

時間は夜の10時。どうせひとり暮らしで心配してくれる人もいないんだ。

この位の時間どうって事ない。


部屋にある物はマイクと、ギターにドラムにピアノにバイオリン…

たくさんの楽器だ。

しかしこんな物、彼女の前ではただのハリボテ。

弾いている姿を見せたって、彼女には何もわからないんだ。


お気に入りのチェロを取り、音を出してみる。



〜♪



低めの美しい音色が部屋に広がるが、美空の表情はなかなか晴れない。




どうすれば…

耳の聞こえない人にも、音楽を楽しんでもらえるのだろう。

楽譜も見ず適当に曲を弾き終わり、小さくため息をつく。



何気なくポケットを漁り、エマが慌てて部屋を出た際の忘れ物を取り出した。



『音は聞こえなくても、貴方が楽しそうに歌ってる姿は見える』


なんでもない一枚の紙。


こんな事…心から本当に思っているのだろうか?


歌ってる姿は見える――…


それが本当なら、僕が楽しそうに歌っている姿を見て彼女は「楽しい」と感じていた。


彼女には見えている。

僕の体の動き、表情。

耳では聞こえなくても、視覚から「音」を感じ取っている。



「そっか…」


美空は薄暗い部屋の中、チェロを仕舞いながら呟いた。


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