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……………

あれから数日が経過した。


「あ、ヤベッ!よし!行け、押せ!」

「ハッハッハ〜。おぬしもまだまだよのう!このスピードに付いて来られるかな!?スライドム―――――ブッ!」


事務所のいつもの部屋には、ゲームに熱中している日晴と美空の声が。

ほとんど中学生の休み時間だ。


その隣。窓に寄りかかるようにクラウディが最近ハマっている推理小説を読んでいて、

雨宮はサボりもせずに今週のスケジュールを細かく確認している。

雪之原は仕事で出ているらしい。



「ただいまぁ」

彼が帰ってきたのはその数分後だった。

女性が持ちそうなウサギキーホルダー付きの鞄をテーブルに置き、緊張感のない大きなあくびをした。


「おかえり、奏。どうだった?」

「あぁ…新しいCMのイメージソングを作って欲しいって依頼が来てるけど、どうする〜?」


また新しい仕事の話だ。

先日リリースした「サイレントレディ」のヒット以降、次々とこの手の話が舞い込んでいる。

軽い口調の雪之原から報告を受け、雨宮は「うむ…」と声を漏らしてスケジュール帳を閉じながら考え込んだ。


「どんなCMか聞いてるか?」

「えっとねぇ…新発売のスポーツ飲料の宣伝…だとか?」

「……ッ」


美空がピクリと反応して気を抜いた瞬間…

「スキあり!」

「…あ!お前ズルいぞ!」

「よそ見してたのはそっちっすよ」

自慢のスライドムーブも破られ、戦闘ゲームに負けてしまったらしい。



「スポーツ飲料か。久々のCM依頼だし…どうするか」


「やるよ、その仕事」


雨宮に代わって答えを出したのは、ついさっきまでゲームに夢中だった美空だ。


「どうしたの、ナオ君?えらく積極的だねぇ。そんなにお金が欲しいのぉ?」

「そうじゃなくて…ちょっとアイディアがあんの!」


自分の手に持っていたゲーム機を日晴に渡し、雨宮の隣に座ってきた。

その表情は、先程よりも若干だが真剣に見える。


「ユキ、さっきスポーツ飲料のCMって言ったよね?」

「うん」

「CMに合わせて僕達もスポーツに挑戦するんだよ」

「スポーツに挑戦?」

日晴が頭に「?」を浮かべて首を傾げている。











「ダンスだよ。歌にダンスを取り入れんの」



「「…………。」」


一瞬周りがシーンと静まり返った…。


「はっ?七音…本気で言ってるのか?」

「当たり前じゃん」

「楽器は?」

「なし」

「ダンスなんて出来るの?」

「レッスンしてもらえば、なんとかなるんじゃない?」



全員の質問の嵐を軽々レシーブしてしまう美空。

皆が驚いているのも当たり前だ。

「weather life」と言えば「楽器を持ったスタイル」

日本にいる時代からそうだった。

ギターとベースとキーボードとドラムで半分は成り立っているようなものだから。

その「weather life」が楽器を持たずにダンスを踊るなんて、メンバーは誰ひとり想像をしていなかっただろう。




しかし、これが美空があの夜に出した答えだった。


耳で聞こえないなら目で楽しめばいい。

上手くそして楽しむダンスを踊れば、音が聞こえなくてもきっと退屈なんてしないはずだ。


しかしメンバーの反応は、もちろん予想通りのリアクションが返ってきた。



「む…無理に決まってるだろう!?今まで歌や音に全てを費やしてきたんだ!僕達みたいな素人でダンスを追加したら、曲の質が落ちてしまうに決まっている!」

さすがにミヤ君は厳しい。

厳しいし、固苦しいし、古いし、おじいちゃんだ。


「んー、面白そうではあるっすけどねぇ。レッスンとかする時間あるかなぁ…」

珍しくあの熱血的なヒーちゃんも消極的か。

「それにもうweather lifeはバンドとして周りの人にも覚えられてるからねぇ。そのイメージを壊すのはちょっと難しいかも」

ユキまでこの調子だ。


「ちょっとちょっと〜、何そのテンション?そんなのやってみなきゃわかんないじゃん?」

雨宮の隣を離れ、ぐるっと部屋を軽く一周してみる。


「七音。これは遊びじゃないんだ。仕事なんだぞ」

「んな事、ミヤ君に言われなくたってわかってるって」

「weather lifeはお前ひとりだけじゃなく、僕達5人でひとつのチームなんだ。何でもお前の意見を通すわけにもいかない」

「………っ」


さすがにここまで反対されると、ちょっと悪い気がしてくる。

雨宮も立ち上がり、美空の前まで歩き出した。

「せっかく案を出してもらったのに悪いな。だが…」



スッと美空の視界が暗くなる。

…っ…自分の前に誰かが立った?



「…?クラウディ、どうした?」

ディが僕に背を向ける形で前に立ったのだ。

一体どうしたのだろうか…


彼は異国から留学してきた唯一の北欧人。

特殊な言葉しか話せないため、基本は何も喋らず、横で温かくメンバーを見守るような存在。

その彼が自ら前に出て何かを伝えようとしている。



ニコリと微笑んで、彼は雨宮に一枚のDVDを差し出した。


「ん?DVD…。観ろって事か?」


見上げた雨宮の質問に、クラウディは笑顔のままコクリと頷く。


意味がよくわからなかったが、彼に指示された通りにDVDを受け取ってテレビのディスクへ挿入する。

4人もその周りに集まり、何事かと視線を画面に集中させた。


『〜〜〜〜…!ヒュー!フーッ!』


画面に映し出されたのは黒人4人組の男達だった。

舞台は室内の小さなライブ会場。

観客席にはたくさんの人が座っている。

このDVDと七音の話と、一体何の関係があるというのだろうか?


「「…………。」」


その会場が静かになり、


ッ♪ッ♪ッ♪


リズムの良い前奏が始まりだす。

至っておかしな所は見当たらない。

すると…



「わぁ…。凄い〜」


時間が経つにつれて全員の目が釘付けになり、雪之原の口からぽろりとその言葉が零れた。


4人は音楽に合わせてダンスを始める。

しかし普通のダンスではない。

計算されつくした体の動き、

豪快なバック転や宙返り、

そして4人の動きがピッタリ合っていて

観ている人間を自然と自分達の世界へ引き込んでゆく。


言葉はどこの国の言葉で歌っているかさえわからない。

しかしそれを「退屈」と感じる事はなかった。

言葉だけでは伝わらない芸術。

声だけでは伝わらない感動。


呆然としているあっという間に、5分間の曲がフィニッシュを迎えた。


リモコンの一時停止ボタンを押し、微笑みながらクラウディはそれぞれの顔を見る。


歌うという事は声を出す事だけではない。

言葉が伝わらなくても、そして耳で聞こえなくても…

歌の楽しさは十分伝えられるという事を、彼は伝えたかったのだろう。




ディ…!ナイス…!!(というか、よくこんなDVD携帯してたな!)


頭の悪い美空の説明なんかより、何倍も説得力のあるクラウディのフォロー。

心の中で彼に盛大な拍手を送ってやった。



「なるほど。言葉が通じない人にも楽しんでもらえる曲か…」

「それもだし、この世界には音さえ聞こえない人もたくさんいるもんねぇ」

「カッケー!ヤッベ、グッとキタわ!ハンパねぇ、惚れた!カッケーわぁっ!!」

日晴は興奮して何度もその言葉をうるさい程連発し、雨宮と雪之原もなんとなくだが最初よりも納得している雰囲気はある。



「しかし…僕達みたいな素人にこんなダンスが出来るのか?やはりまだ自信がない」

「ミヤ君」

美空は心配そうな表情をしている彼の肩を軽く叩いた。


「失敗してもいーじゃん。僕達、今までもそうやってきたでしょ?」

「ッ…」


弱音を吐いてばっかじゃ、僕達の本当の音楽は伝えられない。

もっと自分達の可能性を広めたいんだ。

この世界のどんな人でも楽しませる曲を作りたい。

例え、それが耳の聞こえない人であっても。

雨宮の肩をいつもより少しだけ強く握っていた。


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