……………

彼女は自分の力で起き上がれる状態まで回復したが、もう激しく運動をするわけにもいかず、ジムとふたり並んでプールサイドのベンチに腰掛けていた。

あちらはすっかり先程の楽しい温水プールに戻っている。

そんな光景をただ眺めていた。



「さっきは…ありがとう」

「っ…?」


横から聞き慣れない言葉が聞こえて、ジムは首を回した。

命の危機に晒され、ビッキーも珍しく大人しい顔をしている。

膝の上に置いている拳に力を込めて、もう一度口を開いた。


「水に沈んだ時ねっ…もうダメだ。私はここで死ぬんだって思った。

多分…アンタの言う事聞かなかったからバチが当たったんだって…。

本当は全部わかってたのに。

ジムが私の為を思って言ってくれていた事なのに、やっぱり私素直になれなくて…」


「ビッキー…」


「真っ暗の何もない場所にひとり放り出されて…

凄く怖かった。

怖くて、悲しくて、苦しくて仕方なくて、



何回もねっ…アンタの名前を叫んだの」


「…………。」

ジムは涙目になっているビッキーの横顔から目が離せなかった。


「そしたらね…少しだけだけど…聞こえたの。

まるでこの世の終わりみたいに大袈裟に叫ぶ…私の名前を呼ぶジムの声が」


笑ったが、涙は目の端から溢れ出して頬へと流れ落ちていた。


「アンタとケンカしたまんまで…お別れしたくないって思ったから…

暗闇の中から出口を探して走り回った…気がする。

気づいたら目の前にいてくれて凄く安心した。助けに来てくれなかったら、私もうここにいなかったかもしれないから…感謝してるよ」


涙を指で拭った彼女は顔を上げた。

鼻も目も真っ赤だ。

一時見つめ合うと、目と鼻だけではなく顔全体が真っ赤になる。


「もう!帰ろう!愛しのリッキーも風邪ひいて心配だし!」

「あ…あぁ」


ジムもつられて立ち上がると、持っていたパーカーを強引に奪われた。


「おい、何するんだ?」

「マイクが着ろって言ったんでしょ!?」


ビッキーは頬を赤く染めたまま、奪ったパーカーを羽織って歩きだした。


「はは…ジムだ(怒)」


素直じゃない奴だな。

だが、ようやく一安心だ。

これで少しは男好きな性格が治ると嬉しいのだが。

まぁ…無理かな。

ジムも軽く口元を緩ませ、早歩きで去っていくビッキーの背中を追い始め…







「あ、君可愛いね!どう?俺達あとでバーベキューやるんだけど一緒に来る?」

「………ッ///!行く行くッ★私、バーベキューだーいすき♪」


どこかのハリウッド男優に似たイケメンからのお誘い。

コイツの病気がそう簡単に完治するわけがなかったんだ。




はぁ…


世の中のイケメン、全員絶滅しろ。







またまた子どもの投げたボールが頭を直撃し、ジムはプールの中へ転落した。



fin


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