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……………
静かな夜。
部屋に戻ったリッキーは、電気もつけずシャワーも浴びずフラフラと部屋の奥へ進んだ。
一直線に向かって倒れ込んだのは白いベッドの上。
ただただ力なくうつ伏せになった。
皆…俺の為に何とかしてくれようと頑張っている。
その優しさが今は逆に辛いなんて、誰にも言えるはずがない。
ゆっくりと目を閉じ、頭の中を整理しようとすると
ふと過去の思い出が脳内を駆け巡ってきた。
幼かった記憶。
まだ全てが綺麗だった、あの頃。
*****
「バレル!」
トレーニングが終了すると彼は真っ先に尊敬する先輩の元へ走った。
今から3年前。
まだウィンディランに配属される前のアマチュアバイク事務所。
当時リッキーはまだ14歳だ。
「3時間も特訓してたのに元気だな、お前」
「違うよ。終わったから元気になったの!ね、ご飯食べに行こう!」
「お前の奢りでなら行ってやっても良い」
「え!?無茶言わないでよ、俺だって今月はギリギリなのに」
何だかんだ言いながら、まだ若いふたりは安いと評判の食堂まで歩き出した。
周りも認める仲良し二人組だった。
そして誰もが認める天才コンビ。
努力の天才バレル・ヒューストンと、その後に現れた才能の天才リッキー・スターン。
初めはお互い対立するライバル関係になるかと思われていたが、口数が少ないバレルに人懐っこいリッキーがくっ付いて、ライバルという関係には変わりないが、気づけばいつも一緒にいる仲良しの先輩と後輩という関係にもなっていた。
他のアマチュア部員も集まる小さな食堂。
窓側のリッキーお気に入りの席に座り、空腹男子ふたりの一番嬉しい時間がやってきた。
「ねぇ、バレル。俺達将来どの事務所に就くんだろうね」
カレーを食べながらリッキーが問いかけると、バレルは目線だけを上に動かした。
「お前はどこが良い?」
「俺?俺はまだちょっとわかんないなぁ…バレルは?」
「俺はプロに就ければどこでも良い」
「またそんな謙遜して!あ、バレルならあの事務所行けるんじゃない?あるじゃん、あの本当に実力のある人しか入れないプロ事務所!『ウィンディラン』だっけ?」
その単語を聞いて、ようやく無口な彼は顔全体を上げてリッキーの顔を見た。
「…そうか?」
「行けるって!あそこ6人目のメンバーを募集してるらしいし。それにバレルって凄く速いし顔も格好良いし大丈夫だよ!俺が推薦してあげようか?」
「お前には言われたくない」
四角の白いテーブルを挟んで片方は口を開けて、片方は閉じたまま笑い合う。
いつか立派なプロのライダーになりたい。
この場所へ通う者はそれぞれ皆同じ旗を掲げて、日々特訓を重ねていた。
それはこのふたりも同じ。
窓に広がる青空を背景に、笑い合う若者達の夢は大きく膨らんでいた。
これから先どんな悪夢が待っているとも知らず…
昼食のカレーを残さず綺麗に食べ終える。
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