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……………
その日から数週間後。
耳に入るのは周りに鳴り響くバイクのエンジン音。
トレーニングが終わったリッキーはヘルメットを外して汗を拭った。
近くにバレルの姿はない。
彼は先程当時の上司に突然呼び出され、少しの時間練習を抜けていたのだ。
正午0時。
お昼を知らせるチャイムが鳴る。
練習の時間までに戻って来るかと思ったけど、結局最後まで帰って来なかったな。
ふぅと小さく息を吐き、バイクを引いて歩いていた途中だった。
「リッキー!!おい、聞けよ!」
あ。バレルが戻ってきた。
でも、なんだか普段と様子が違う。
いつもはクールなアイツが珍しく全力疾走でやってきたのだ。
表情も若干興奮しているように見える。
「おかえり。遅かったね。話って何だったの?」
「驚くなよ!俺、あの事務所にスカウトされたって!」
「あの事務所?」
「『ウィンディラン』だよ!」
「本当!?」
「驚くなよ」と言われても、これは驚かずにはいられない。
ウィンディランといえば、アメリカでどんどん知名度を上げている有名なプロバイク事務所。
本当に実力のある者のみしか入る事が出来ないと言われる、俺達の憧れの場所。
そこに入りたいが為に、このアマチュア事務所に足を踏み入れる者も少なくはない。
今までずっと努力を続けていたバレルが興奮状態になるのも当然だった。
「おめでとう、バレル!やったじゃん!」
「あぁ…マジ、信じられねーよ」
彼も今まであまり口には出さなかったけど、この事務所に本当に入りたかったのだろう。
顔から照れ笑いが漏れ、リッキーでさえそれを「可愛い」と感じた。
「じゃぁ、今日はバレルのプロ進出のお祝いと活躍を願ってご飯を食べに行こう!」
「あぁ、お前の奢りでな」
「何言ってるの、奢るのはバレルだよ」
「なんで祝ってもらう方が奢るんだよ」
スパン!と馬鹿な後輩の頭を気持ち良く叩く。
こんなに笑ってるバレル、あんまり見た事がない。
…本当に嬉しいんだろうな。
喜びがこんな俺にも伝わってくる。
その日の夜は結局どちらもあまりお金がなくて、いつもの安い食堂へ行き
ふたりでカレーパーティーを行った。
ちょっと豪華にカレー+デザート付きで。
もちろん、支払い方法は割り勘だ。
……………
朝9時。
カーテンの隙間から朝日が漏れ、何羽もの鳥が同時にさえずる。
寝癖が付いたままのリッキーは大きなあくびをして、部屋を出ようとしていた。
ガサガサ…
「ん?」
更衣室から何か音が聞こえる。
そういえばルームシェアをしているバレルの姿が見当たらないな。
こんな朝から着替えてるのだろうか?
ガチャン!
扉を開けようとすると、数秒早く向こうが先に扉を開けた。
「わっ!ビックリした!あれ…?」
現れたバレルは、爽やかな朝に似合わない黒のライダースーツを身に付けている。
リッキーはきょとんとした目で彼の顔を見上げた。
「朝から騒々しいな」
「バレル?今日は休みだったんじゃ…」
「俺は今日は出張だ」
「あぁ…そういえば…」
そういえばウィンディランのスカウトを連絡してくれた上司が、昨晩突然バレルに出張命令を出していた事を思い出した。
こんな急に出張を言い渡される事はほとんどなく、彼も準備をする余裕がなかったのだろう。
突っ立っている仲間を尻目に、資料や生活用品を次々と用意したバッグに詰めていくバレル。
「朝から大変だね」
「何言ってんだ。これが俺のここでの最後の仕事だ。大変だなんて思わねぇ」
そうか、あと一週間でバレルはこの場所からプロの事務所へ飛び立っていくのか。
そう考えると急に寂しさが込み上げ、無言で準備を続ける背中がなんだか名残惜しく見えた。
「見送るよ!さ、行こう」
準備が終わった先輩の手を引っ張り、リッキーは車庫へと向かった。
ブォォォ…ブォォォ…
バイクに跨ったバレルは、キーをさしてエンジンをかける。
ブォォォ…ブォォォ…
「なかなかかからねーな。あ…かかった。じゃ、行ってくる」
「うん!気をつけてね」
ブォォォォォォッ!!
アクセルグリップを絞り、土煙を上げてバイクは走り出した。
もうすぐ旅立つ仲間を前に俺がメソメソしていられない。
ここは友人らしく、明るく見送ってあげなければ。
笑顔で手を振るリッキーだが、あの背中を次に見られるのが
まさか3年後だなんて思ってもいなかった…。
バイクが小さくなるまで手を振り続け
そして微かな煙と匂いだけが残って、その姿は消えた。
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