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……………

「ねぇ、リッキー君がウィンディランを辞めるかもしれないって聞いた!?」

「聞いた聞いた!最近調子悪いみたいだし、何かあったのかな?」

あの日からまた数日が過ぎていた。

近くのコンビニから帰る途中、すれ違った学校帰りの女子高生達の会話がたまたま耳に入った。

恐らくまたあのふたりが、デタラメな噂を流しているのだろう。

チッ…

不愉快だ。

適当に買ったサンドイッチとコーヒーの入った袋をぶら下げ、いつもの帰り道を歩いた。




「ただいま」

「あ、おかえり、ナイジェル!ちょっと来てよ」

帰ってきて早々、迎えたビッキーが不安そうな表情をして突然腕を引っ張ってきた。

「んだよ、痛ぇな」

「リッキーが…皆に話があるって。とりあえずちょっと来て!」

「……ッ…」


メインルームへ急かされるとメンバー全員が既にソファーに集まっていた。

どうやら自分が帰って来るのを待っていたらしい。


「ナイジェル、座ってください」

リッキーが空いているボビーの隣に座るよう促す。

苦手な空気だ。

ナイジェルは渋い顔で指定された場所に腰を掛けた。


全員が集まった事を確認し、小さく息を吐くリッキー。


彼は数秒黙った後、ゆっくり口を開いた。





「俺…ここを辞めます」



「リッキー…!」



誰もが微かに予想していた言葉。

しかし予想をしていたとしても、その言葉を耳でハッキリ聞いてしまうと、黙っていられなくなったビッキーが立ち上がってしまう。


「ダメだよ!リッキーがここからいなくなっちゃうなんて…私耐えられない!」

「ビッキー…」

「やだよ!そんな事言わないで!ここにずっといるって言って!」

「実際…俺が入る予定じゃなかったんです。何事もなく事が進んでいれば、ここにいるのはバレルだった。彼の居場所を奪ったのは紛れもなく俺なんです」


普段の爽やかさとはかけ離れた低いトーンで話す彼。

すぐにビッキーの目が潤んでいく事がわかった。


そこでジムが立ち上がる。

「リッキー。本当にお前は先輩であるバレルを差し置いてここに入ろうとしたのか?」

「…………。」


彼は今までの経緯を話し始めた。

先にバレルがオファーを受けた事。

その直前で彼が事故を起こした事。

なんだかんだ綺麗事を並べ、結局彼の代わりにのうのうと自分がここへやってきた事。

今更何を隠しても無駄だと思い、全て残らず話した。


「…………。」

5人は口を閉ざしたまま下を向く。

「その後もバレルの連絡先を探し続けたのですが、全く彼に辿り着けなくて…病院に行っても、治療の妨げになるからと面会も全て断られました。
そして病院に通い詰めて数ヶ月、彼は俺の知らない間に他の病院へ転院させられ、個人的な情報だからとその病院さえも教えてもらえませんでした」


「…………。」


「電話もいつの間にか通じなくなり、彼の居場所は完全にわからなくなってしまい…どれだけ探しても見つかりませんでした。
最後は『俺がバレルの代わりにウィンディランでバイクを続けていたら、彼はきっと見つけてくれる。俺の元に戻って来る』って…結局は自分に都合の良い解釈にしかすぎなくて」

「リッキー…」

「全て俺のせいなんです。最初の病院に運ばれたあの日、俺が無理やりにでもバレルの元に行っていれば、彼の気持ちも汲んでやれたかもしれないのに」

「リッキーのせいじゃないよ!だって…」

「俺を可愛がってくれた大切な先輩だったんです!それなのに俺は…結果的に彼を見捨ててしまい、彼の居場所さえ奪ってしまった。
それに皆さんにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかないんです!」


リッキーは語尾を強めて立ち上がった。

手が震えている。

いつも温厚な彼なのに、今はこんなに頭に血がのぼってしまっている。

そんな苦しそうな姿にそれぞれの胸が強く締め付けられた。


「…すみません。ちょっと頭を冷やしたいので、外の風にあたってきます」

「おい、リッキー!」


ジムの呼びかけも聞かず、彼は逃げるように走って…





ガチャン!




そのまま外へ飛び出してしまった。




「「………。」」


メインルームに不安と悲しみだけが残る。


何も知らなかった。


あんなにいつもニコニコ笑って、仲間を大切にしていたリッキーにそんな過去があったなんて。

そんな事も知らず…

自分達は本当に仲間だったのだろうか。

リッキーは本当に、自分達の事を仲間だと思っていてくれたのだろうか。


どこか遠い所へ…大切な仲間が行ってしまう気がした。


リッキーはもう帰って来ないかもしれない。


俺達の仲間という場所に。


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