15
……………
自分を責めた。
もう誰が悪いかなんてわからなくて…
怒りのぶつけ方がわからず、その矛先は全て自分に向かっていた。
そうだ。
事故を起こして大怪我をしても、実際バレルは回復して帰ってきた。
そして、俺は彼に負けた。
最初にオファーを受けて怪我をしてしまっても、それ以上の力をつけて帰ってきたバレル。
彼が怪我をしてしまった事をきっかけに、横からのうのうと入って、結局は大した力も伸ばせずに負けた俺。
誰が見たって、この時点で入れ替わらなければいけないのは確か。
「天才」と呼ばれるはずだったのは俺じゃなくて彼なんだ。
何も考えずに本部を飛び出し、フラフラ街中を歩き回ったが、やはりどこにも行く宛などない。
目に映るのは、延々と流れるレンガ道。
今の現実を思い出しただけで、暗い気持ちに押し潰されそうになる。
すれ違う男性、ベンチに座っている学生、電話をしているおばさん。
周り全員が俺を可哀想な目で見ているように思えて…
怖い。
……ッ…
ふと足が止まった。
顔を上げると、デパート入り口付近に自分達のポスターが貼ってある。
「…………。」
半年前、新型バイクのイメージキャラクターに選ばれた時に撮ったポスター。
そのポスターに写っているジム、ビッキー。
ボビーにサラにナイジェル。
そして、俺。
それぞれが楽しそうに笑っている。
あの撮影の時。ナイジェルは上手く笑顔が作れなくて、注文が多いカメラマンに逆切れしていたな。
「…………。」
口の中の歯を、自然と食いしばった。
ふと、あの最初の日を思い出していた。
初めて5人に出会ったあの日。
*****
バレルの思いを晴らしてやりたい。
その一心で俺はハンドルを切っていた。
華々しくプロデビューをする俺の記念日。
…のはずだったのに、天気は生憎の豪雨。
アマチュア事務所を出る前まではあんなに晴れていたのに、こんなに天気はコロッと変わってしまうものなのか。
その為俺はバイクで来たかったのだが、急遽上司から借りた車を走らせていた。
「あと10分位かな…」
ワイパーがギリギリ追いつく位の激しい雨の中、目印の標識が見え、目的地に着々と近づいている事を確認する。
〜♪
順調に運転をしている途中、突然携帯が鳴り出した。
この音楽はメールではなく電話だ。
車を道路の脇に停めて、それをポケットから取り出した。
「はい。もしもし」
「あぁ、リッキー君。凄い雨降ってるけど大丈夫かい?」
電話の向こうは、これからお世話になるウィンディランの社長だ。
顔は見た事ないけど、なんとも朗らかな話し方をする人で「社長」という印象はまず受けない。
なんとなくだけど天然な人なのかなと自分の中でイメージ像を作っていた。(俺が偉そうに言える事ではないが)
「お疲れ様です。大丈夫ですよ。あと10分程で着くと思います」
「あぁ…それなんだけどねぇ。来る途中でちょっとお願いしたい事があるんだけど」
「お願い?」
社長の話によると、なんでもその辺で傘もささずにずぶ濡れで歩いている女の子を探して欲しいとの事。
…ドラマの撮影?
リッキーはひとりなのに思わず首を斜めに傾げてしまった。
「そんな女の子いるんですか?」
「いるよいるよ。ちょろっと探してくれないかな?」
「ちょろっとって…こんな大雨ですし。そんな中を歩いてる人なんて…」
……………いた。
すぐ隣の河原をびしょ濡れで歩いている女性を発見した。
…映画のワンシーン?
「あのっ…その女性ってオレンジ色の服を着てますか?」
「うーん…どうだったかなぁ…」
「青のショートパンツを穿いていますか?」
「ん〜……穿いてたような…なかったような…」
「何か特徴ってありますか?」
「僕の姪だから、可愛い子だよ」
「………。」
「………。」
「その子、ブーツ履いてますか?」
「ブーツねぇ…履いてた日もあったけど」
「…可愛い女の子ですか?」
「あ、そうそう。その子だよ。もう見つかったの?さすが天才だね」
「いや、天才とかあまり関係ないと思いますが…」
なんだか…よくわからない人だ。
これは心の中だけでコッソリ思った内緒の話。
「うん。その子を拾って一緒にこっちまで連れて来て欲しいんだ」
「誘拐だと思われないですかね?」
「大丈夫大丈夫。彼女面食いだから」
「いや、そういう問題じゃ…」
「あ、あとお腹空いたから途中でからあげクン買って来てくれると嬉しいな。それじゃ、頼んだよ」
「あ……はい」
ぷちん。
大丈夫かな…
この社長。
とりあえず指示通り、彼女を車に乗せ(途中で寄ったコンビニでからあげクンレギュラーを買って)車を走らせ続けた。
やまない雨。
休みなく動き続けるワイパーが何度も視界に入ってくる。
初対面の女性を助手席に乗せたまま、俺はバレルの事を思い出していた。
今頃何をしているだろうか。
何を考えているだろうか。
俺の事…少しでも思い出してくれているだろうか。
そう考えている間に大きな建物が見えてきた。
ここが俺がこれから過ごす場所。
・
・
・
「いいんです、俺も挨拶がしたいので。行きましょう」
「えっ…ちょっと!」
そう言うと拾った彼女はウサギみたいにキョトンとして、ふたりで一緒に玄関まで歩いた。
初めて挨拶をした時、何故か全員が安心した顔でぐったりしていたな。
今考えてみれば、それだけ皆ビッキーが心配だったのだろう。
そして、いきなり押しかけた俺に対しても笑顔で出迎えてくれた事を覚えている。
優しくて…温かくて…家族みたい。
この人達を見て、そんな言葉達が頭に浮かんだ。
でもそんな幸せを感じる一方で、俺の脳裏にはまだバレルの影がちらついている。
彼がいつまで経っても俺から離れてくれない。
こんなにも幸せムードで出迎えられているが、本当にここに立つべき人物は俺ではない。
俺はただのバレルの代用品。
そんな事周りの誰にも言えるはずなどなく、俺はあたかも「選ばれてやってきました」面をしていた。
俺はこれからも、この人達を欺き続けなければいけない。
バレルの居場所を結局は奪う形となってしまった。
笑顔で挨拶をする中、俺の体には黒い罪悪感が渦巻き
少しでも気を抜けば、飲み込まれてしまいそうだった。
*****
何故今…こんな事を思い出してしまったのだろう。
ポスターの顔をひとりずつ見て、小さく息が漏れた。
今更こんな事を思い返したって、あの頃には戻れないというのに。
「…………。」
そのまま何も言わずポスターに背を向け、リッキーはその場を去った。
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