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……………
バレルが負けた一部始終を上から全て見ていたミランダは目を疑った。
観客は思いがけない逆転劇に大盛り上がりだが、こっちはそれどころではない。
バレルはジムとかいう奴らと何やら話をして、スタンドからひとりで去っていく。
「クッ…!」
それと同時に彼女も観客席を走って飛び出した。
内ポケットから携帯電話を取り出し、操作をして耳に当てる。
「もしもし!?ちょっとどーなってんのよ!
違うわよ!話が違うじゃない!
アタシだってあんな奴に負けるなんて………ッ!」
外へ飛び出した会場出口で、ミランダの足は突然止まる。
「危ない危ない♪危うくアンタを取り逃がす所だった!」
目の前には既に、ヘルメットを被りバイクに跨がったふたりのライダーがいた。
オレンジと黄色のライダースーツ。
確かこの色は…
ヘルメットを外した女性。
ビッキーとサラがミランダの行く手を阻んでいた。
「ちょっ…退きなさいよ!」
「ウチの社長とやっと連絡がついたの。社長はバレルじゃなく、初めからリッキーをスカウトしていたわ」
「……ッ…」
サラは証拠として社長からFAXしてもらった当時の書類を取り出した。
その日付や写真、印鑑に偽りはない。
紙を見たミランダの頬に一滴の汗が流れ、通話中だった電話を無理やり切った。
「全部アナタの嘘だったのね!?」
「こっちで当時の事を色々と調べさせてもらったわ。貴方たちが何を企んでいたのか。」
何も言い返してこないミランダ。
話を聞いてやろうという事なのだろう。
彼女の様子を見て、ビッキーとサラは今回の出来事の全容を憶測だが口にし始めた。
「当時のリッキー達の上司、人柄は良かったらしいけど裏ではギャンブルに、不倫、酒。
相当金使いが荒かったそうじゃない。これも同じ事務所の社員から話を聞いてるわ。
金に困っていた時、丁度ウィンディラン事務所のオファーが来て閃いたんじゃない?
天才ふたりを利用して、上手く金儲けが出来る方法を…」
「まずは当初スカウトされていたリッキーではなく先輩のバレルにオファーの話を持ち出す。
彼は顔に似合わず物凄い努力家だったらしいから、プロへ入りたいって気持ちが強い事も知ってたんでしょ。
でもその後、バレルはタイミング悪く事故を起こして入院。
でもその事故の内容を調べたんだけど、どうもおかしいのよねぇ」
「どーいう事?」
ビッキーの言葉にミランダは目を細める。
「当時の資料を見せて貰ったんだけど、彼が事故を起こしたのは見通しの良い一本道だったの!
周りに車も走っていなかったのに、ハンドル操作を誤って崖へ転落という事で処理されてた。
一緒にバイクをやってる私達ならわかるけど、リッキーの才能は入団した時から群を抜いていた。
そんな彼と張り合う程の実力を持っていたバレルが、こんな凡ミスを犯すなんて普通は考えられないのよ。
さすがに当時のバイクは残ってなかったから調べられなかったんだけど、私達は誰かがバレルのバイクに細工でもして意図的に事故を起こさせたと思ってる。
例えば…警備の固い事務所内にいる人物で、且つバイクに近づく事が出来る上の位のお方とか…」
「…ふん」
言葉は投げやりだが、当の本人の目はどこかしら泳いでいるように見える。
次にサラが口を開いた。
「事故の後、残されたアマチュアメンバーの中でプロ入りが出来るレベルに達していたのが親友のリッキーだけだった。
上司は『君がバレルの為に頑張りなさい』とでも言って説得したんでしょ。
あの子素直だから、上司の言う事は何でも聞きそうだし。
そして当初の予定通り、彼を新人ルーキーとしてウィンディランへ送り込んだ。
あとは『面会禁止』だとか、あらかじめバレルの携帯に細工をしてリッキーとバレルの間柄を遮断。
そうすれば見舞いにも来ない連絡もしないリッキーが、自分を見捨てて代わりにブレイクしたという現実がバレルに突きつけられる。
そこで事故の後に出会った貴方に、今回の話を持ちかけたられたのね。
『本当は貴方がブレイクするはずだった。それをリッキーが奪ったんだ。だから一緒に彼と、この事務所ごと潰してやりましょう』と。バレルの復讐心を煽る為に。違う?」
「ちょっと待って、笑わせないでよ。
バレルはプロ入りを断念せざるを得ない程の大怪我を負っていたのよ?そんな彼がアンタ達にケンカを売れる程強くなるなんて保証どこにもないじゃない!」
「強さを取り戻すかどうかなんて、そんな事アンタ達にとってはどーでも良かったんだよ!
大事なのはリッキーがバレルの栄光の座を奪うって状況を、あたかも本当の事みたいに上手く見せつける事。
リッキーが後ろめたさを感じながら、ここで活躍をする事。
こういう事情があればウチの事務所の弱みにつけ込みやすくなるからね。乗っ取って金でも搾り取ろうとでも思ってたんでしょ」
グッと歯を食いしばるミランダ。
明らかに動揺している。
「こんな事、こちらで調べればすぐにわかるってのに!叔父さんが過去の事も覚えてない程ちゃらんぽらんに見えたの?」
「社長がいない間に完全にリッキーを解雇してバレルを入れてしまえば、後はどうとでもなると思ったんでしょ。これを聞けば、復讐心のためだけにケガをした体で血を流すような努力をしたバレルはどう思うかしらね」
「…証拠は?肝心の証拠はどこにあるっていうのよ!」
「言ったでしょ!?ウチの社長は最初からリッキーを欲しがってたって!それなのにリッキーはそれを知らなかったの!それが、その間を受け持つ人間が嘘の情報を流したって明らかな証拠よ!」
「じゃぁ、そのバレル達に嘘の情報を流した上司に問いただせばいいじゃない!アタシはそんな男会った事もないわ!事故の後にたまたまバレルを見つけて…」
その言葉を聞いてサラがフッと笑った。
「会った事がない。言ったわね?」
「…えっ」
「その人物が、今も貴方と繋がってるって事、こっちはちゃんと証明出来るのよ」
「はぁ!?馬ッ鹿な事言わないで頂戴!どこにそんな証拠が…」
「馬鹿なのは貴方の方でしょう?わざわざご丁寧に、その人物を会場に連れて来るなんて」
「…………ッ…」
ミランダの頬に大粒の汗が流れる。
心臓のドクン!と鳴る音が聞こえた気がした。
「先日、この会場でリッキーに暴言を吐いた男。貴方の隣でピーピー騒いでたあの親父」
「…………。」
「あまりにやさぐれててあの子本人も気づいてなかったみたいだけど、あれ…バレルの元上司でしょ。
監視カメラに映っていた顔と、当時の写真をよく照らし合わせると、黒子の位置や傷の跡まで完全に一致したわ。
不倫してたって話だし、それがアナタだったんじゃない?」
「クッ…!」
バサッ!
ミランダは立ち塞がっているビッキーとサラから逃げるように、隣の藪の中へダイブ。
上手く小道を伝って逃げる作戦らしい。
…ったく、何なのよ!どいつもこいつも!
ガサッ!
ガサッ!
走り慣れない汚い土の上、邪魔な草を必死に手で払う。
それでも高いヒールで器用に走り、別の出口を探し続けると、暗闇の向こうに光が見えた。
一直線に走り抜け、飛び出し…
「…ッ!」
「甘いのよ!ここは私達のテリトリーなんだから、アンタがどこに出てくるかなんてお見通しなんだから!」
作戦は失敗。
バイクで先に回り込まれていた。
「観念しなさい」
「わかったでしょ!この事実をバラされたくなかったら、これ以上リッキーに近づかないで!」
コイツらッ…!
チッと本性が現れるまるで男の舌打ち。
むしゃくしゃしたのか持っていた携帯電話を地面に強く投げつけ、その瞬間に壊れた破片が一帯に散らばる。
「何よ、なんなのよ!
アンタ達だって見てたでしょ!
実際バレルはあのガキより強かったのよ!?
強い奴が弱い奴と入れ替わってくれるなら、アンタ達だってそれに越した事はないに決まっ…」
「わかったような言い方しないで!!」
サラがミランダに怒鳴りつける。
リッキーを「弱い奴」なんて言った事が許せなかった。
この女は何もわかっていない。
彼はもうそれだけの存在じゃない。
サラの脳裏に蘇ってくる記憶。
以前自分がこのメンバーを辞めそうになった時、彼は必死に止めようとしてくれた。
自分の身が危険にもかかわらず、命がけで守ろうとしてくれた。
こんな私の為に何時間も駆けずり回って、命を投げ出そうとして、そして怒りを爆発させた。
そんな彼が弱い奴?
ふざけないで。
ミランダの顔を強く睨みつけ、サラは口を開いた。
「あんな男に
リッキーの代わりが務まるわけないでしょ」
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