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……………
騒々しかった観客もようやく最後のひとりを見送り、本日のレースは全て終了した。
バレルはジムとの勝負に負け、ひとりでスタンドを出て行き
ミランダはレースが終わった後にどこかへ姿を消したが、
何故かその後サラとビッキーが彼女の壊れた携帯電話を持っていた事から、何か女の事情があったのだと思う。
多分あの女もこれ以上俺達に関わらないだろうと、携帯を握っていた彼女らの表情からわかった。
何も伝えていなかったアナウンサーや裏方のスタッフには随分と迷惑をかけてしまったが、
皆あの罵倒事件以降、薄々と何かしら事情を察していたらしく、怒られるどころか心配してくれる人がほとんどだった。
リッキー・スターンという人間が周りから好かれるような人柄であったからこそ、彼らはこうやって優しく気遣ってくれたのだろう。
そう考えるとなんとなく嬉しくなって、ジムの頬が少しだけ緩んだ。
「何ニヤニヤしてんだ?」
「っ…勝手に見るな」
更衣室でふと顔を覗いてきたナイジェルに、ジムは思わず言い返した。
「はは。怒んなって。それにお前の今日の走りは本当に凄かった」
「……。たまたまだって。本人にも言ったけど、バレルが風よけになってくれなかったら、俺に最終ラップで追い越せるほどの体力は残ってなか…」
「それが実践出来る奴なんてほぼいねぇよ」
「……っ」
「他ライダーを風よけにするためには、相手のバイクの後ろにピッタリついていないといけねぇし、前輪が相手の後輪にぶつかれば一瞬で自分の転倒に繋がる。
それに相手はあの天才だ。走りもその辺の奴とはまるで違う。
そんな奴の後ろに同じスピードで一定の距離でつくなんて、相当なバランス能力と持久力が必要だ。
頭でわかっていたって、出来る人間はまずいない。
お前は凡人なんかじゃねぇ。この中じゃ誰も真似できない天才的なオールラウンダーだ」
「…なんだよ、急に。照れるな」
「フン、誰も褒めてくれねぇから年上が褒めてやってんだろ。素直に喜べよ」
「いいんだよ、俺は誰にも褒められない「普通の奴」で」
…服を被ってしゃべるジム。
表情を見られたくないのか。
「ははっ。その走りが出来れば今後のレースもずっと1位なのにな」
「無理言うなよ…」
さて。着替えも終わった。
更衣室を出てメインルームに戻るとすでに全員がそろっていた。
「これから…どうするか?」
「……」」
「リッキーは探さないの?」
「いや。アイツは多分自分の力で帰って来る。だから俺達は信じてこの場所で待とう」
次に話しかけてきたビッキーの頭を撫で、全員はメインルームに戻った。
「た…大変だよー!」
それは戻った直後の出来事だった。
たまたま先に戻っていたボビーが、何やら慌てた様子で廊下を走って来たのだ。
彼はそのまま先頭に立っていたジムをスルーして、その後ろにいたビッキーに上手くかわされ、最終的にナイジェルの胸に飛び込む。
「んだよ…気色悪い、離せ」
「それより大変なんだよ!僕はっ…僕はどうすればいいんだい!?」
かなり動揺している彼の姿を見て、全員がただ事ではないと思ったらしい。
サラが冷静に問いかけた。
「どうしたの?」
「今…電話があって!
リッキー君が…!
リッキー君が街中で、男の人と殴り合いのケンカをしてるって!!」
「「はぁ!?」」
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