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ガチャン!
「ただいま!あ、ナイジェル君!具合は大丈夫かい?」
そこへトラブルの原因を作り、ジムから追い出されていた張本人のボビーが座薬を買って帰ってきた。
「あぁ…俺は大丈夫だが、コイツは大丈夫じゃなさそうだ」
「あれ?ジム君、やっと死んだの?」
倒れている彼の口から、魂のような浮遊物がフワフワと飛んでいく。
今の彼には突っ込む元気もないらしい。
「はぁ…もう、ナイジェルには参ったよ。本気でリッキーに惚れてるらしい」
「俺は最初から本気だ」
ようやく立ち上がって、ナマケモノのようにゆっくりとソファーにジムは座る。
「少し待てば治るんじゃない?」
「だと良いんだけどな…」
ボビーの言葉にヘラッと笑って、ナイジェルが飲みかけていたコーヒーに手を伸ばす。
そうだな。前向きに考えないと。
そうだ。あとでボビーから、その惚れ薬の説明書を見せてもらおう。
きっと注意事項や何らかの解決方法が書いてあるはずだ。
「あ!それを飲んではいけない!!!」
突然、ボビーの叫び声が部屋中に響く。
何事かとナイジェルが彼の顔を見た。
「………………。」
コトン…
ゆっくりとカップをテーブルに置くジム。
それは先程ナイジェルが飲んでいたドット柄のカップではなく…
オレンジの星がたくさんプリントされているカップ。
そのカップの持ち主は、ナイジェルでもボビーでもない。
「あ…ぁ…」
状況がわかって、ボビーはヒクヒクと頬を引きつらせていた。
「たっだいまーっ★はぁ、疲れた!」
玄関から聞き覚えのある高いトーンの女性の声。
言葉の割には仕事の疲れを全く感じさせないビッキーだ。
「うるさい」とテンション低めの小さな声も聞こえる事から、サラも一緒に帰ってきた様子。
ふたりは何も知らずにメインルームまでやってきて、先頭の茶髪の彼女が自慢気に持っていた袋を見せつける。
「じゃーん!見て見て!相手先のおばあちゃんがカステラくれたんだよ!皆で食べよう!」
「……………。」
…あれ?
いつもは真っ先に出迎えてくれるはずのジムが、ビッキーに対して背を向けたまま動かない。
サラが視線を変えるとナイジェルもぽかんと突っ立っていて、ボビーはイタズラがバレてしまった子どものように硬直してしまっている。
サラ「ジム、どーしたの?」
「…………。」
「ねぇ!リッキーは!?リッキーはどこいるの?」
ビッキーが黙って背中を向けているジムに近づこうとした瞬間…
ジム「俺は…ボビーが好きだ!!!!!!!」
「「…………!?」」
叫んだ彼に思考が一時停止する。
ボビー「あわわぁっ!違っ…違うんだ!僕はちょっとビッキーちゃんにそのっ……!」
ナイジェル「なんだ?このコーヒー、何か入って……………俺もボビーが好きだ!!!!」
「「…………!!!?」」
カップに口を付け、続けて叫んだナイジェルに、ますます体全体が一時停止。
ボビー「アアアアアアッ!!だから違うって…」
ガチャン!!
リッキー「ボビーッ………俺も好きです!!!」
「「…………!!!!!!?」」
ボビー「えええええッ!!?なんで!?飲んでないよね、君!!!」
その言葉と同時に、愛を叫んだ男3人がボビーに向かって突進してくる。
「そ、そんなっ…リッ…リッキーが……!」
愛しの彼が私ではなく、死ねばいいと思っているボビーを「好きだ」と追いかけ回している目の前の光景。
みるみるうちにビッキーの目が潤んでいき…
「嫌ぁぁぁぁぁぁッ!!!」
状況など理解する余裕もなく、泣き喚いて頂いたカステラを床にデストロイヤー。
そのまま扉を破壊して外へ飛び出した。
「ちっ…違うんだ、ビッキーちゃん!」
「好きだ!」
「俺も好きだ!」
「俺も好きです!」
「待ってくれ!」
「手術するから!」
「俺と注にゅ…」
「ギャァァァァァァ!!!!!」
問答無用で男達に追いかけ回され続けるボビー。
ピピッ!
『動画は保存されました』と、液晶画面の文字。
「…ププッ」
サラは携帯を閉じて、笑いを堪えながら騒ぎに巻き込まれる前にビッキーが壊した穴から外へ出て行った。
fin
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