……………

「もー、ダメだダメだ!」


漫画本や携帯小説…挙げ句の果てには保健体育の教科書みたいな本。

絶対に認められるはずがなかった。


ジムは前のめりになり、テーブルを強く叩いて大きな声を出す。


「お前らこのままじゃ『読書感想文』どころか、『読書』すらままならないぞ!いいのか?お前らそれでいいのか!?もっとやる気を出せ!

…はい。という事でテーマとする本は俺達が考えた。心して聞くように」

「え、でも今からじゃ本を読む時間なんてあまりないですよ」

「安心しろ」


雨宮の言葉を受け流し、ジムは足元の紙袋を漁って一冊の本を取り出した。


「俺達が選んだ本はこれだ!」



「「…………。」」


目の前に出された本のタイトルとイラストを見て、高校生5人はすっかり固まってしまっている。



それもそのはず。

載っているのは、ちょんまげの青年とイヌ、サル、キジ。


昔話で有名な「桃太郎」だ。


「どうだ?これなら皆知ってるから、わざわざ本を読む手間が省けるだろ?」

「いや…だからって、高校生の読書感想文で桃太郎ってぇ」


美空が鼻で笑ったが、ジム達の真面目な表情は変わらない。

どうやらアメリカンジョークではないらしい。


「え?ちょっ…まさか本気すか?」

「女性の体の仕組みより100倍健全で100倍学生らしい題材だろ。

ただ誰でも知ってる物語だからこそ、それぞれの文章力が試される。言わば感想文を書くにあたって一番読みやすく一番難しいテーマの本だ。

デタラメに内容を変える事も出来ないし、物語の背景や登場人物の心情も周りは知っているから、あまり当たり前の事は書けないからな」


日晴「じゃやっぱNARUT●にしましょーよ。オロチ退治とか目標が被ってるじゃないっすか!」

「オロチじゃあまりに敵が強すぎるのでボツッ!」


彼が取り出した単行本が、部屋の隅に放り投げられる。



サラは怒る日晴を無視して、美空から受け取った作文用紙をそれぞれの前に一枚ずつ並べ始めた。

とやかく考えている時間はない。

この8月31日という日付が終わってしまう前に、この難題作文を完成させなければならないのだ。


目の前に用紙が広げられ、早速雪之原がシャーペンを握り始めた。

「桃太郎ねぇ〜、うん。じゃぁ書き始めは『むか〜しむかし、ある所にお爺さんとお婆さんが住んでいました』」


ビッキー「雪之原君!潔く書き始めたのはいいけど、君が物語を書いてどうするの!?せめて感想を書いて!」

ボビー「まぁ、落ち着きたまえ。作文を書くのがド下手クソな君等にいきなり高度な文を書けなんて言ったら、僕達は鬼だ!」

雨宮「退治されてしまいますね。桃太郎なだけに」

ジム「上手い事を言うな」

サラ「ここはまず『感想文の書き方』をイチから学びましょう。リッキー?」

「はい」と返事をし、最近買い替えたスマートフォンで検索を始めるリッキー。


「えっと…ネットで調べた所によると、読書感想文のテクニックとして、まずいくつかの段落に区切る事が重要みたいです」

ジム「そうだ!つまり感想文を書くのに重要なのは、難しい知識やボキャブラリーの数ではなく、基本の『段取り』だ!
何をするにもバランスが大事って事。これは全ての物事に当てはまる事だな」

ビッキー「じゃぁ、早速私達がざっくりと桃太郎を5つの段落に分けてみたから見て!」

@桃太郎誕生
A鬼退治へ出発
B仲間達との出会い
C鬼との死闘
Dその後の平和な暮らし


彼女が壁に大きく貼った白紙には、このような文字が黒のマジックで書き込まれていた。


「なるほど。この5つのお題に対し、僕達5人でひとつずつ担当を決めて感想を書くという事ですね」

優等生雨宮は、わざとらしく眼鏡を親指でクイッと上げながら口を開いた。


「その通り!ちなみに誰がどこの段落を担当するかという振り分けも俺達で決めさせてもらった!
モタモタしている時間はない!早速取りかかるぞ!」

ジムのかけ声でそれぞれがペンを握り、駆け足の読書感想文が始まった。


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