コツッ!コツッ!コツッ!


コンクリートの道路にテンポよくヒールが落ち、気持ちのいい音が響く。

女性は膝下の白のタイトスカートを穿き、群青色のブラウスを着ている。

桔梗色のゆるくパーマがかった長い髪。

それを縛っているフリフリのシュシュが女性らしさを一層引き立たせている。



…お兄ちゃん、元気にしてるかな。


彼女は兄のいる、ある場所を目指して歩いていた。

腕時計を見ると現在の時間は予定していたよりも5分程早い。

バスの乗客が思ったよりも少なくて、早く目的のバス停に着いてしまった事が原因だろう。

結果的に言えば、兄とそれだけ一緒にいられる時間が長くなる嬉しい誤算。

青い空を見上げて、彼女は先程よりも少しテンポを早めて歩みを進める。

目印の赤いポストが見えてきた。

確かあそこのコンビニを左に曲がって…



ガッ!


「キャッ!」


突然、後ろから薄い肩を掴まれて引き戻された。


「ハハッ〜!『キャッ』だって!可愛いー!!」


彼女の顔に暗い影が落ちる。

目線を上げると、そこにはニット帽を被った痩せ型のキツネのような金髪男。
そしてクマのような体格の良い銀髪の見知らぬ男が立っていた。

肩を掴んできているのは痩せ型の男の方。


「なっ、何ですか!?」

「いや、あのね!後ろ姿が可愛かったからちょっと前から顔が見たいなーって思って!」


なんとなく、この男の人達には近づいてはいけない気がした。

物語にたまに出てくる、チャラついてて悪い事を考えている人間だ。

「ここは強気でいかなければ」そう思い、昔から怒っても恐くないと言われる顔を最大限強気の表情にしてみせる。


「急いでいるので失礼します」

「ちょっと待ってよー!お姉さん、前から見ても凄く可愛いよ!」

「ちょっと、離してください!」


肩を離したかと思えば、次はしつこく腕を掴んでくる男の人。

ナンパ目当ての人になんか負けないと、必死に女性は抵抗した。


「やめてくださいっ!警察呼びますよ!」

「そんな怖い事言わないでさぁ!いいじゃん、ちょっとの時間くらい!」

「嫌です!」


手をブンブン振っても男の手は離れない。

それどころかこちらは本気の力を出しているのに、あっちはニヤついて余裕の表情だ。


「あ〜?もしかして俺達に反抗するつもり?いざとなったら、君を一発ぶん殴って車でどっか知らない所に連れて行っちゃう事も出来るんだけど?」

「やめ…」

「オラ、早く来いやッ!!!」

「きゃっ…ごめんなさい!」


いきなり男性の大きな威圧感のある声に、体が縮こまってしまった。

腕を無理やり引っ張られ、足が男達の向かう方向へ引きずられていく。自分はもうダメだと悟った。

大きい声を出したくても恐怖で声が出ない!

痛い…!そんなに強く掴まないで!




ガシャァァァンッ!!!




「…………ッ…!」


突然強い振動が体に伝わり、クマのようなガタイの男が吹っ飛ばされて反対側の道路脇のレンガ壁に叩きつけられた。

まるでスローモーションのような光景。

彼女にはその瞬間が間近でハッキリと目に焼き付けられた。

どこからか現れた男性が、この大きな男性を左足で蹴り飛ばした瞬間を。



「………。」



震えながら視線を向けると、そこには無表情な茶髪の男性が立っている。


顔に深い傷跡。

左耳に派手な蛇のピアス。




なんだか…



この人も怖い…!!涙



「あ!?何すんだテメェ!!」

蹴られていない痩せ型の男性が声を上げると、茶髪の男性は細く鋭い目つきでその男を強く睨む。





「店の前で暴れられると困る」

「はぁ!?店?」


よく見るとここは丁度ファミレスの入り口辺りだった。

そうか。よく見るとこのお兄さん、ウェイターの格好をしている。

このファミレスの店員だったんだ。


「んなもん、客じゃねー俺達には関係ないだろ!」

「客じゃねーんなら、ますます都合がいい」


傍から見ると痛々しく指を鳴らすウェイターの男性。

その殺気に不良の男は「ヒッ!」と小さな声を漏らして後ろに退がる。

視線は今にも「ケンカ」ではなく「殺し」を始めそうな目だ。


「オイッ!起きろ!逃げんぞ!」

痩せ型の男は蹴られて倒れているもうひとりのクマ男を立ち上がらせ、やられる前に走って逃げ出した。





「チッ。雑魚が」

冷たい目で情けなく去っていくふたりの背中を見た後、ウェイターの男性は何も言わずに店内に戻ろうとする。


「あのっ…!」

「……。」


戻ってしまう前にお礼を言わなければ…

ちょっと怖そうな人だけど助けてくれた事に変わりはない。

勇気を振り絞って女性は深くお辞儀をした。


「助けてくださってありがとうございます。その…お店の店員さんにこんな事をさせてしまって…申し訳ありません…」

「別に助けた覚えはねぇ」


女性相手でも、そのウェイターは全く優しい顔を見せない。

先程の不良達を見る目と同じ。

全く光の入らない瞳。

顔半分を覆う暗い影と冷酷な視線が、やはり自分の中の恐怖心を強く煽る。


「ごごっ…ごめんなさい!」

「…………。」


男は面倒そうに眉をひそめながら、お辞儀をする女性を見た。


「あっ…いや……その…」

謝りすぎている事に気づき、なんだか次は恥ずかしくなってくる。

こんな道路のど真ん中で…顔から火が出そうだ。

男は少しも表情を変えないまま口を開いた。


「くだらねぇ」

「えっ?」

「俺がウゼェと思ったから追い払ったまでだ。貴様に何を言われる筋合いはない」

「………ッ///」


その言葉を聞いて女性の顔が真っ赤になる。

なんでだろう。

凄く冷たくて、全く優しさなんて感じられない言葉なのに…




なんだか心臓がドキドキする。




「コラァッ!新入り!また馬鹿な事をしよって!Σ」

そこへ店内から髪の毛が大分薄くなり、大きなイボのような泣きボクロを付けた小さいおじさんが現れた。

服装はこの茶髪の男性と同じウェイターの服。

かなり激怒して声を荒らげている様子から、私とは違う意味で顔が火照っているようだ。


「お前はいつもいつもトラブルばかり…!」

「客じゃなかったらいいだろ」

「店員以外の人間は皆お客様と教えただろ!何度言えばわかるんだ!?」

「飯食ってないなら客じゃねーだろ」

「だからっ…いいから仕事しろ!客が待ってるぞ!」


その小柄なおじさんにこっぴどく叱られ、反省する態度を見せないまま背中を押されて店内に戻される。



「……………。」


しかし女性の耳にはおじさんの登場からの会話は全く聞こえていなかった。

何も考えられずに立ち尽くし、その茶髪のウェイターから目が離せなくて。


プップー!


「あっ!ご…ごめんなさい!」


危うく車に轢かれそうになってしまった。


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