……………


「……ッ!」

人通りのない一本道。

普段は静かなその通りに、嫌な緊張感が漂い始める。


ローラは咄嗟にバレルの後ろに隠れてしまった。

目の前には、今日の昼に襲ってきたあの男性ふたり。

蔑む目でニヤニヤ笑ってこちらを見ている。


「今日はどうもお世話になったねぇ。あれ?何?おふたりさんデキちゃったの??」

「イケメンの上に悪者からピンチを救ったんだからなぁ!いいなぁ〜、そんな可愛い子と簡単にラブラブ出来るなんてぇ!本当に羨ましいぜぇ〜」

嫌みったらしく言う不良ふたりの手には、昼にはなかった金属バットが握られている。

まるで子どものオモチャのように振り回し、その血走った目は今にも襲いかかってきそうな視線だ。


「…誰だ?」

「ハァ!?お前、俺達の事覚えてねーのか!?」


物騒な不良達に対し、バレルは眉間にシワを寄せる。


「雑魚を一々覚える程、俺は暇じゃねぇ」

「お前、ちょっとケンカ強いからって調子に乗ってんじゃねーぞ!?」

体格の良い方が激しく怒鳴ると空気が強く振動し、恐怖でローラはバレルの背中を掴んだ。


「まぁ、落ち着けや。今回俺達はこんなモン持ってんだ。こんな生身のヤサ男に負けるわけねーだろ」

クマ男をなだめた後、次は痩せ型のニット男が前に出た。

金属バットを引きずる不気味な音。


「ヒッヒッヒッヒッ…
お前も本当はすげー怖いんだろ?まさかこんな怖い物を持って復讐に来るなんて思ってなかったから。んなカッコつけてももう遅ぇんだよ。ヒッヒッヒッ…」

同じように不気味に笑う。

手を伸ばし、バットの先をバレルの腹や足に軽く当てる。


「足が震えてきてんじゃねーの?おしっこ漏らしそうなんじゃねーの??俺ら、マジでお前をぶっ潰そうと思ってるんだけど?大丈夫かなぁ?泣いちゃうかなぁ?」

「…………。」


馬鹿にする男の幼稚口調にも全く表情を変えないバレル。


(怖いっ…)


ただただ怖くて、心臓が破裂しそうで、必死に彼の背中を掴んで恐怖を鎮めようとする。

こんな世界の人達と関わった事が今まで一度もなかったからっ…

小説なんかでよく出てくる悪者に似てるけど、外から見る感覚と実際に間近で見る感覚はまるで違う。








「やってみろ」

「…あぁ?」



「貴様らみてぇなクズに潰せるもんなら潰してみろ」




えっ…?



バレルはとんでもない事を言い放った。

言葉が耳に入った瞬間、ローラは息をする事も忘れて無意識に瞳孔も開ききってしまっている。


バレルさんッ…そんな事言っちゃダメ!

そんな事言っちゃ、この人達怒って…!

殺されちゃう…!



「んだと、テメェ!ナメんじゃねぇぞ!!!」


ニット帽の男は、感情が高ぶって高く金属バットを振り上げた!


「…っ!」

ローラも、そして陰で見ていた6人も咄嗟に目を瞑った。









ゴンッ!!!!









一本道の道路に鈍い音が響く。

金属が骨に直撃する、重く痛々しい鉛の音。


ポタッ…


ポタッ…


足元に赤い鮮血が滴り落ち、地面で跳ね返る。


その鉄の音後の数秒間、気持ちが悪い程の静寂が周りの草木やコンクリートに染み込んだ。









「……ウゼェ…」




「………ッ…!?」


金属バットは確かにバレルの右こめかみに命中している。

手応えはあった。

血だってこんなに流れている。


普通の人間なら、立っている事すら不可能のはずなのに…

ニット帽の男の顎が震え、カタカタと口の中から歯と歯のぶつかる音が微かに聞こえた。


バットの影から鋭い目がギロリと不気味に浮かんでいたのだ。

真っ直ぐにこちらを睨み付け、蛇に首を絞められたような威圧感が全身に襲ってくる。





―逃げなければ…




男の頭にその言葉がよぎった時には、既に手遅れだった。




ガッ!!!


バレルは頭にぶつけられているバットを左手で奪い取り、その勢いのまま不良を顎から強く蹴り上げた。


「グァッ!!」

「畜生!何しやがんだテメェ!!!」

地面に叩きつけられた仲間を見て、もうひとりのクマ男が同じくバットを振り上げて走り出した。


シュッ!

カンッ!!!


奪い取った金属バットを相手のバットに投げつけ、鉄と鉄がぶつかる鈍い音が。

「…あっ!」

同時に不良の手からそれが離れる。


「テメッ……ブッ!」

宙を舞ったバットに気を取られた瞬間に、バレルはボディブローを男の腸に打ち込む。



「ガッ!グッ!ゴッ!煤v


頬、胸、頬、腹と連続で強力なパンチを食らわせ…


「この野郎がぁぁぁッ…!!」


ニット帽の男が立ち上がって、後ろから殴りかかってきたが…



「グフッ!!」

バレルがしゃがみ込んでかわした事から、その拳はクマ男の胸に命中。


「ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」

「テメェ!ナメた真似しやがっ……っ…!」


ふたりの後頭部に手の重なる感覚が伝わり…



ゴツンッ!!!


意識が朦朧としている不良達の後頭部を掴んで、額と額を強く打ち合わせた。

先程の金属バットで殴られた時の音に似た、重く痛々しい音。



今の動きが目にも止まらぬ速さだった。

言葉では伝わりにくいが、多分10秒位で全ての蹴りがついてしまい、
見ていた人からすると、あまりにあっという間すぎたという言葉でしか説明出来ない。

不良は額と額を重ねたまま、ズルズルと人形のように崩れ落ち

地面に倒れて完全に気を失ってしまった。



「申し訳ございません、お客様。手が滑りました」


バレルは最後に、わざとらしい棒読みな台詞を口にした。


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