……………


「それでですね、そのテニス選手が凄いんです!ラケットを二刀流してるんですよ!」

「なんだそれ。完全アウトだろ」

「アウトじゃありませんよ!目に見えないスピードで高速で持ち替えてるから一本が二本に見えるんです!」


今日の夕食も口を開いているのはリッキーやナイジェル、ボビー。

肝心のふたりは相変わらず目も合わせようとしない。

ビッキーは質問された内容に軽く返事をしながら食べ進めるだけで、ジムに至ってはほとんど口も手も動いていない。

何かを真剣に考えている。


「ごちそうさま」

男達が雑談をしている間にビッキーの夕食は終了。

皿の中のオムライスは完食している事から、食欲はあったみたいだけど。

一方のジムの皿は、サラダにしかほぼ手をつけておらず、メインは半分も減っていない。

ずっと頬杖をついて難しい顔をしている。

食べ終わった食器を大きい順からまとめ、彼女はキッチンへそれを運びに行く。


「ねぇ…ジム…」

その空気に堪えかねて彼の腕を肘でつついてきたのは、隣に座っていたサラだ。


「なんだよ?」

「本当にいいの?このままで」

「…………。」

「ねぇってば」

「ああもう!今考えてるだろ!?」

「……ッ…?」


突然大きな声を出してしまったジムに全員の視線が集まる。


「あぁ…いや…」

「ジム…」

「もう…あのな…」

彼は髪をぐしゃぐしゃにかき乱しながら目を閉じ、

何かを決心したのか、強く立ち上がった。


「……ッ」


勢い余って椅子がカタンッと後ろに倒れる。

リッキーやボビーも会話をやめてしまった。

慣れない妙な緊張感。


「ビッキー、あのさ…」

彼女の視線は真っ直ぐにジムへ向いていて…







「この間の…あれ……なかった事にして欲しい」

「えっ?」

サラの口から一瞬声が漏れただけで、まだ部屋の中は静かなまま。


「あれ」とは…まさか「あれ」の事?

それだけの言葉で、蘇ってきた過去のシーンは全員一致した。



「「……………。」」


気まずい…

かなり気まずい。

先程までの楽しい夕食が嘘のよう。重い空気に押し潰されている。






「なにそれ?」

「なにそれって…その…前にお前に言った事だよ」


無視さえしないものの、ビッキーの顔は明らかに気分の良い顔ではない。


「なんで?」

「なんでって…決まってるだろ?こうも気まずかったら周りのコイツらにも迷惑がかかるし。
俺も…こういうの嫌だしさ。
だから…あれはなかった事にして、今まで通り…」



ガシャァァァンッ!!



「……っ!!」


突然、床に激しく叩きつけられたのはビッキーが手に持っていた3枚の皿。

それは強い衝撃と共に割れ、鋭い欠片が床のあちらこちらに飛び散った。


「なっ…!何してんだ、お前!?」

「もうっ…サイッテイ!信じられない馬鹿!!」

「はぁっ!?」


ビッキーは頭に血が上っているらしく、周りの事も気にせず男に向かって怒鳴り散らした。


「アンタ…なんっにもわかってない!何がなかった事にして欲しいよ!?馬鹿じゃないの!?本当っ…信じられない!」

「はぁ!?何が『何もわかってない』だ!?お前が何も言わないから、俺も何もわからないんだろ!?」

「そりゃアンタだって一緒でしょ!?」

「俺はちゃんと今ここで言っただろうが!」


お互い息が荒く、耳まで真っ赤。

怒りの言葉のぶつけ合いがキッチンで繰り広げられる。

ここ数日、ほとんど口さえ利かなかったのが嘘みたいに。

他の4人はその勢いに圧倒され、止める事も出来ずに椅子に黙って座ってしまっている。


「もういい!アンタと話してたって埒があかない!」

「オマッ…!ちょっと待てよ、まだ話は終わって……痛ッ!」


キッチンから出て行こうとするビッキーを引き止めようとしたジムだが、彼女が割った皿の破片を踏んでしまいチャンスを逃してしまった。


ガチャンッ!!


その間にまるで反抗期の学生のように、わざと強く扉を閉めて彼女は部屋を出た。



「「…………。」」



重い空気に、漂うオムライスの匂い。

気まずい状況の中、4人は残されたジムの背中を見つめる。


「ジム…」

「はぁ。いいんだ…いつもの事だから」

気遣って声をかけてきたサラに、ヘラッと笑ってみせる。

かなり無理しているその笑顔が、今は逆に痛々しいのに。



「お前達はメインルームに戻ってろ。後片付けは全部俺がやっとくから」

「でも…」

「いいんだ。…ごめん、今はひとりでやらせてくれ」


彼の頼みもあり、4人はジムひとりを残して立ち上がった。


「あぁ…食べ終わった皿もそのままにしてていいよ。俺がまとめて片付けとくから」

「………。」

「………。」


「ジム」

「………ッ…」

「あんま無理すんなよ」



ナイジェルの言葉に、落ちている皿の破片をじっと見つめた。



「心配するな。大丈夫だよ」


いつものジムの口調。

やっぱり最後は、この言葉が返ってくるんだな。


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